コラボSS

□飛べない魔術師(後編
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 レオンは父を見上げた。今日は、久し振りの遠出である。
 何よりも大好きな、父と飛ぶ時間。
 幾分小ぶりな箒にまたがるレオンの姿を見て、父は満足そうに笑いかけた。
 その時、それまで大人しく父の肩にとまっていた、ルビードラゴンの幼生が鳴いた。
「む…?」
「どうしたの?父さん」
 問いかけるレオンを制し、暫し風の音に耳を傾けていた父の顔が、緊張に包まれてゆく。
「これは…誰かが『禁呪』を使ったな」
 レオンの頭にやさしく、そして力強く手をおいて、言い聞かせる。
「ここで待つんだ。いいな、レオン。」
 肯くレオン。それを見た父は、満足げに微笑むと、たちまち遥か遠くへ飛んで行ってしまった。


 漸くあげたセリオスの悲鳴は、ドラゴンの咆哮にかき消された。
 漆黒のローブに包まれた人物が笑う。差し延べられる、悪魔の手。
 その時、レオンの父が、2人の間に割り込むように降り立った。
 視界に巨大なダークドラゴンの姿を認め、舌打ちする。
「…頼むぞ、相棒」
 肩に留まった紅竜が一声、心得たとばかりに高く鳴いて翼を羽ばたかせた。
 レオンの父の唇から詠唱が流れ、紅いオーラに包まれる。
 その詠唱に呼応し、紅玉色のドラゴンもまた、姿を変じていく。

「ほう…」
 漆黒の魔術師は、フードの中でひそやかな笑いをつくった。
 立ち上る紫のオーラ。それは賢者──中でも、あらゆる学を極めた者のみが放つ神秘の色。
 しかし、本来神々しい筈のその色は、どこか狂気を帯びていた。
 同時に詠唱に入る二人の賢者。咆哮をあげる、紅と黒の竜。


 何かを感じ取り、レオンははっと顔をあげた。
 一瞬の逡巡の後、父の去った方角に箒を向ける。
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