随筆紺碧
□寝言
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心地よい風が吹いている。
昼下がりの休日、レオンはアカデミーを見下ろせる丘に来ていた。
空は何処までも青く、快晴と言っても良いくらいの天気で、昼寝にはもってこいの陽気であった。
たまには昼寝としゃれ込むか、とひとりごち、場所探しを始める。
その時、前方にある大木の下に人影を認めて、レオンは目を凝らした。
つややかな銀髪、端正な横顔、細身の身体。
セリオスである。
腹の上に文庫本が伏せて置かれている処を見ると、読書をしている間に眠ってしまったのだろう。
いつもは毅然とした輝きを放つ蒼い瞳も、今は安らかに閉ざされ、長い睫が影を作っていた。
そんなセリオスの傍へと腰を降ろし、レオンは暫しその寝顔に魅入った。
(やっぱ、綺麗な顔してんな…)
無意識に手が伸び、髪を撫でる。
時折指を絡めながら梳いてやると、癖の無いセリオスの髪は、さしたる抵抗もなくレオンの指を受け入れた。
「…ん…」
寝ていてもくすぐったさを感じるのか、セリオスが小さく身じろぎをする。
「おっと…」
ずり落ちた本を受け止め、ご丁寧に栞まで挟んでやってから、枕元に置いてやる。
と、セリオスの唇が動いて何かを呟いた。
その声は、小さ過ぎてレオンの耳には届かなかったが、唇の動きは見て取れた。
「 れ お ん 」
それから少し遅れて紡がれる言葉……。
はじめは怪訝そうだったレオンの表情が、驚愕と歓喜に変わっていく。
「…そっ…か、そうだったのか…」
ざわ…っ
風がざわめく。
「…お前も……だったのか…」
何処か合点がいったような顔のレオン。
だがその呟きは、風にかき消されてはっきりと聞き取れない。
「セリオス、オレも……のこと……」
レオンの途切れがちな声。
縮まる、セリオスとの距離。
ざわめく風。
呟きは徐々に囁きに変わり……そして。
風が、止んだ。
「…好き、だぜ…」
唇が重なる刹那、レオンは、セリオスが微笑んだのを見た気がした。