コラボSS
□飛べない魔術師(後編
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「…あいつは飛べたんだ」
セリオスは繰り返し呟いた。
カイルは余計な口を挟まず、次の言葉を待ち続ける。
訪れる長い沈黙。
「…八年前になる」
それは、セリオスが六歳の誕生日を迎える前日の出来事だった。
その時セリオスは、ひとり庭で遊んでいた。
裕福な家に生まれついた彼は、近所の子供達と遊ぶ事を、厳格な父親に禁止されていた。
そんな彼の目の前に現れたのは、黒いドラゴンの幼生。
「わあ、竜だ」
ぴょこぴょこと動き回る竜を見て、幼いセリオスは、目を輝かせながら追いかけた。
知らず屋敷を抜け出し、気付いた時には、深い森の中を彷徨っていた。
「…え?」
もう少しで捕まえられると思った処で、ドラゴンは突然動かなくなった。セリオスが恐る恐る近寄ると、突然ドラゴンは咆哮をあげ──
めきめきという音を立てながら、一気に成体へと変貌していく。
それを見計らったかのように、いずこからか人影が現れた。
「さあ、おいで…」
その人物は、あまりの事態に口も利けないセリオスに、妖しげに微笑みかけた。