<愛の偏食>

□コイノアジ
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「あ。」

冷蔵庫を開けたら、ミルクが切れていた。
ここのところ、寒い夜には温かいラムミルクをよく飲んでいたから、そのせいだろう。
甘くてあったかくて、ふんわりいい匂いがしていい気分に眠くなる。
そして何より、ミルクに「お酒を入れて」飲むというのが僕を満ち足りた眠りに誘う。
僕だってもう十分大人なのだ。

「どうした?…何か賞味期限過ぎてたか?」

ちょっと枯れた声の緒方さんが覗き込んできた。
昨日から見る度いつもくわえタバコで、まるで周りにモヤがかかってるみたいだ。
どうやら頼まれている原稿が煮詰まっているらしい。

「何言ってるんですか!冷蔵庫の中のものを腐らせるなんて僕がいる限りさせません!」

几帳面なくせに一度めんどくさくなると途端に手抜きになるこの人は、
チーズだとか調味料だとか微妙に日持ちするものを時々ダメにしていた。
『まだ先があるかと思えばそうじゃない、かと言ってそう早くもない。
中途半端なそいつらが悪い。』
と緒方さんは言って聞かなかった。
この人は几帳面というより凝り性なのかもしれない…。
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