† REAL †

□Pretty girl
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「…ぅアチっ!」

「ぼさっとしてんじゃねぇぞ?チビナス」

海に浮かぶレストラン・バラティエの厨房。
今はランチタイムが終わるまで、後十数分と言った時間―滑り込みの客が押し寄せて来る時間帯だ。
ホールからひっきりなしに届くオーダーの声に応えるべく、料理人共が忙しなく行き交う厨房は怒号も飛び交い、戦場さながらである。
そんな最中に集中力を欠いたサンジが、オーナー・ゼフに怒鳴られた。

「煩ェ、クソジジイ」

そんな悪態を吐きながら、サンジは自分自身の未熟さに舌打する。

俺とした事が。
この程度の作業でミスするなんて。

『ミス』と言う程度のものではない。
ソースを作るため、熱したフライパンにワインを注ぎ火柱を上げただけだ。
しかし、他の事に気をとられて上の空だった彼は、綺麗な金色の前髪を少しだけ焦がしたのだった。
長く厨房に立っている料理人にあるまじき行ないである。
自分が許せなければ、それは『ミス』となる。
ましてや、今日のディナー・タイムには、最近サンジが恋焦がれている『あの娘』の予約が入っている。
チリチリと焦げ付いた前髪で、彼女を出迎える訳にはいかない。
不幸中の幸いだったのは、焦げ付いたのは毛先のみで済んだ事だろう。

少しカットすれば、大丈夫。

怒涛のランチ・タイムを終えて休憩に入ったサンジは、直様自室に向かい、鏡で前髪の焦げ具合をチェックした。
引き出しからナイフを取り出すと、焦げ付いた部分を削ぎ落とす。
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