→うた
□音のない森。前
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歩く
歩く
歩く。
通い慣れた帰路を
一人、とぼとぼと。
覇気などあるわけがない。
本当は言いたくもなかった事を、
綱手に告げたのだから。
自分の言動で相手のモチベーションが下がる姿は見るに忍びない。
小さい頃からのトラウマだろうけれども…。
『───嘘、だ…ろ?』
『ばぁちゃん…。』
『ッッ…畜生!』
『──ごめんね…?』
今し方の会話、
思い出してみても。
現実は、変わらず唯そこにある。
たった一つぽっきりの、
紛れのない真実なのだから。
あーぁ、こんな日は
「鍋でも食べたいなぁ…」
ちょっと豪華めで、具沢山な奴。
其れで気を紛らわそうとか思っちゃってる訳だけどね。
「──…って、アレ?」
ポゥっと灯る明るい光。
主はここにいるというのに、何故か灯っている自宅を目にし、眉間に皺一つ。
カンカンと軽い鉄板の音を響かせ階段を上り、
注意深く自部屋の前に立つ。
感じるのは人の気配。
そして俺の好きな食べ物の匂い…。
あー…
また来てるんだ。
ちょっとの安堵と呆れ。
あとは、
そうだね…
沢山の喜び?
「…………。」
「遅かったな、ウスラトンカチ。」
「…『遅かったな』、じゃねェ!
まぁた勝手に人ん家上がったな?!」
我が物顔で居座る男にギッと睨み付けてやったのに、その相手といったら
素知らぬ顔で手にした分厚い巻物の続きなんかを目で追っちゃってる始末。