→忍びさん・2
□夏氷。
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近所の寂れた駄菓子屋さん。
奥のスペースに置かれている紙カップと先の平たい専用ストローを持ったなら。
がりがり しゃりしゃり
一回百円のセルフかき氷。
夏氷
店先の小さな腰掛けを陣取り二人並んでだらだら食べる。
最高気温36度の炎天下。
焼け付く肌は日陰に隠して、シロップと熱で溶けてく細雪をまた一口。
青で染まる氷と舌。
御隣りは緑色で同様に。
蝉の叫びをそれとなく耳にしながら気力の削がれた身体で思うことは一つ。
「無駄に暑い、」
「だな。」
軒先の風鈴ですらちりんと鳴らぬ大気にだらりと汗が流れる。
此れほどまでだと涼を求めて外出せずに生温い室内で我慢していた方が得策だったのではないだろうか、今更遅いのだけれども。
「ブルーハワイってさー、結局何味な訳?」
真っ青な山をストローで崩し零した素朴な疑問。
見た目だけは涼しげな顔をした御隣りは、虚ろな視線でもってやはり隣りを見遣る。
「あれってソーダ味らしいぜ。」
「えー、嘘だぁ。」
ソーダの味なんかちっともしねぇじゃん。
反発しながら手に零れた蒼水を舌で掬った彼の瞳も真っ青だ。
「嘘じゃ無ェよ。ブルーハワイはレモン香料・オレンジ香料・ペパーミント香料とか混ぜて出来たソーダ味のシロップだって言ってるぜ。」
「誰が?」
「某シロップメーカー。」
「ふーん。」
「因みに名称はカクテルの『ブルーハワイ』からきてるんだと。」
ブルーハワイの話をしながら緑の山を崩す鴉髪の男。
手にしたストローで一欠片口にした途端、ぎゅっと眉間へ皺を寄せる。
「………甘ッ、」
「宇治なのに?」
「宇治ったって抹茶に砂糖と水加えた甘ったるいシロップなんだよ、ウスラトンカチ」
「お前が其れにしたんだろ、文句言うなってば。」
氷が溶ける。
カップの中で。
口の中で。
「宇治にミルクかけたら『宇治時雨』ってゆーんだぜ、」
そう言う彼の緑には勿論ミルクなど掛かってはいない。
基本、甘いものは嫌いなのだ。
「お前かき氷に詳し過ぎ。」
「んな事無ェ、」
「『かき氷王に、俺は成る!』みたいな?」
「……どこぞの海賊だよ、」
温く風が吹いた。
ちりんと可愛らしく風鈴は唄う。
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