書庫室

□白く降り積もる
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雪が敷き詰められた、寒々しい景色の中に男が二人。
等間隔で続く石碑。
その中に小さいが、手入れのいき届いた墓が一つ。

『巽 征一郎』
すこし離れたところからその名前をみて都筑は変な顔になる。
「普通、自分の誕生日に墓場にくるか?」
「中々できない経験でしょ?」
巽は静かに笑っていて、長い睫毛の影になった瞳からは何を考えているか解らない。
すると、サクッという雪を踏みしめる音と共に反対側から白髪の老女が歩いてくる。その隣を支えながら歩く青年。
「お婆ちゃん、足元滑るから気を付けて」
その青年に巽と同じ蒼い瞳を見つけて都筑は息を呑んだ。
老女は墓を清め、花を換えこれ以上は躰に障るという青年の言葉にその場を辞した。
巽には気が付かなかった。
「巽…」
彼は黙ったまま。微動だにせず老女の背中を追う。
「妹です。」
「…うん」
巽の目は穏やかだ。
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