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□君に幸あれ
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「お前に幸あれだな」
卒業を間近に控えたある日。ロス行きの決まっている高城は中本にプレゼントを渡した。
「ニャ〜」
ロシアンブルーの子猫。洒落た赤の首輪にSachiの文字。
「動物をプレゼントにしますか?普通。」
「要らないのか?だったらかわいそうだが、保健所行きだぞ。」
中本は溜息をつき、『猫に罪は無いから』とサチを引き取った。
「卑怯ですね。高城君は。これじゃ、忘れたくても忘れられない。」
少しだけ膨れた表情に破顔して、そのつもりだったのだと白状する。
「好きな人には覚えていて欲しいだろ?」
「でも、貴方は僕を忘れてますよ…きっと。」
冷たい風が吹いて、二人の対象的な髪を揺らす。
「なんでそう思う?」
「確かなことなんて無いからですよ。」
冷たい風。でも春を含む風。
「確かにな。でもその子猫は俺の証にならないか」
変わりゆく日々を、共に歩む代わりに。
子猫が中本の腕の中で鳴く。新たな主人の悲しみを想ってか。二人の板挟みにあったせいか。
「貴方は卑怯だ。」
自分を罵る言葉でさえ甘く響いた。
―…君に幸あれ。
 

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