書庫室

□姫君の誕生日
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「今日、一日なんでも言うこと聞いてあげる」
駄目犬こと、都筑麻人は開口一番黒崎密に宣言した。
密は、突然のことに怪訝な顔をした。
「いきなり何言ってるんだ?」
「だって誕生日でしょ?」
満年金欠な都筑がめいいっぱい考えた末のプレゼントだった。
しかし、所詮ダメ犬。密が面倒と思う仕事を都筑ができるわけがなかった。
密宅にて
「じゃあ、夕飯でも作ってあげる?」
「却下!!マジ却下!実行したら出入り禁止だかんな」
「えぇ〜!?じゃあ、なにすればいいのさぁ」
「黙って肩でももみやがれ」
結局、密のその一言で都筑は一日(といっても半日以上経過していたが)専属マッサージになった。肩から徐々に下へ。そして、今はふくらはぎをもみほぐしてる最中だ。
満足気に都筑を睥睨する密。足元にへつらう都筑。はたから見れば異様な光景だが、都筑は幸せだった。密が自分に身を任せているその事実が嬉しかった。
「密ぁ、足のつめ。伸びてるよ」
「あ?」
声は聞いてはいたが、すでに夢心地で微睡んでいた密の返事は緩慢だった。
「切ってあげる」
嬉々とした声に不審なものを感じるも、ぼんやりとしたままの密。
にんまりしたまま都筑は手に鋏をもつ。

「っ!」 唐突に走った痛みに密は眉をしかめる。視線を下ろせばほんの少しだけ、都筑のにやけ顔。
「ごめん。ちょっと深く切りすぎた」
「てめっ!」
「消毒しないとね」
ここにきてようやく、都筑の思惑に気付くが時既にお遅し。
都筑の唇が恭しく足先に触れた。
そのまま蹴り倒そうかと思うが、ふいにかち合った紫暗の瞳に言葉を無くす。
「密、生まれてきてくれてありがとう。」
「とっくに死んでるがな」
都筑は、密の悪態も無視して言葉を続ける。
「来年も一緒にいてもいい?」
爪先から伝わる甘い響きに赤くした顔を片手で隠し、密は呻くようにつぶやいた。
「俺はお伽話の姫かよ」
都筑はさながら騎士のように肩膝をついて密を見上げた。
「ご返答をいただきたい」
似合わねぇといいわけのようにつぶやいた後。たった一言
「許す」
翡翠の瞳が甘やかにつげた。

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