書庫室

□想いの数だけ咲き誇る朱い花
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治癒能力に優れた死に神といえど万能なわけではない。所詮、元は人間。その事を密は実感していた。
「はぁ…‥」
鏡を前に密は深く溜息をつく。
「痕つけんなって言ってんのに…!」
細い指で首筋を押さえる。押さえている手首にさえうっすらと紅が咲いていた。死神と呼ばれる自分達のからだは、素晴らしくご都合主義だ。傷などはありえない早さで回復するが、基礎代謝やらなにやらは死んだ年齢とほぼ変わらない。つまるところ、触れば血が溢れそうな鬱血でさえ外傷でない限り即座に治ることは無い。
「どうすんだよコレ」
未だスヤスヤと眠りこけてる相棒を睨む。
「ん?…ぉはよ…ひそか」
念力(?)が通じたのか都筑がのっそりと起き上がる。
「おい」
「ん?」
不機嫌もあらわな密の低い声に、茫洋とした紫の目を向ける。
「どうしてくれんだ?これ」
「っ!」
紫の目に飛び込む夥しい朱。昨夜、都筑が付けた情事の痕。
「…ごめん」
都筑は密から目を反らして俯きながら呟いた。その反応に密は面を喰らう。どんな身勝手な言い訳をすのかと思っていたのだ。それが言い訳どこかシーツを指が白くなる程にぎりしめて「ごめん」と繰り返している。
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