書庫室

□其は雨に濡れ堕ちる
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雨が降っていた。彼の温かな体温と、ほのかな薫りを奪うように。

雨が、降っていた。


溺れるように求めた夜。朝は、雨音を連れてやって来た。
「ん…?」
ろく見えない目を眇て、当たりを見渡すが、視界にはシーツの海が広がるばかり。
「都筑さん?」
傍らに有ったはずの体温はなく、不信に思いながらベットから降りる。情事の重い躯を引きずり、中庭にでる。傘もささずに、雨に濡れた彼がいた。
「なにしてるんですか…」
溜息のような小言に都筑は薄く笑みを浮かべた。袖の余るワイシャツが濡れて肌に張り付いていた。
「風邪、ひきますよ」
「うん」
頷いて天を仰ぐ。冷たい雨に願うように。どうしてこの人は、人一倍温もりを求める癖に、冷たい場所を好むのか。まるで、暖かさに触れる事に罪悪感でもあるかのように。
「いつまでそうしているつもりですか」
「うん」
茫洋とした瞳で何を考えているのか、私には解らない。そうして思い知らされるのだ、彼を雨から救えない無力さを。
「巽…」
「なんです?」
顔を天に向けたまま、呟く。
「雨が、俺を叩いてるみたいだ」
私は知った。この人は、許しでも救いでもなく断罪を求めているのだと。
「都筑さん」
裸足のまま中庭に降りていく。
「濡れるよ?」
「かまいません」
救えないのなら、せめて、同じ雨に打たれていたい。

終焉
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