竹簡

□目眩吐息
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死をこんなときに実感する

「仲ぅ…達っ…‐っ」
わずかに残る理性を総動員してその名を呼んだ。
無意識立てた爪に、眉を寄せたのが見えた。
「…っつ!!」
体内に残る酸素を食い潰して強く張り詰め神経が震えた。
どんな些細なことにも敏感になっていたそれらが一瞬の高まりのあとまったく機能しなくなる。
普段は怜悧な頭脳も今はただ白く。
冷徹な声を響かせる喉は息を整えることすらままならない。

息ができない。
思考が働かず。
指一つ動かない。

「大丈夫ですか。曹丕様」
男にしては細い指が、未だ整わず震える唇に触れた。

戦場にいるときよりリアルに、この男に抱かれるときこそ。
‐死を意識する。

冷たい指先がゆっくりと喉を辿る。

「仲達よ…」

‐お前も死を感じるのか。私のナカで。そうして、いつか私を殺すのか。

言い掛けた台詞は熱い口付けに止められた。
「なにをお考えですか」
らしくもない熱っぽい視線にわずかに唇を引き上げた。
不粋な事は今は捨ておくとしよう。
ただ、今は。
「お前のことを…」

冴え渡る月が闇に沈んだ。



END
 

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