竹簡

□温もりに罪を抱く
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仁の人。
群雄割拠の乱世にあってそういわれた人物が膝をついた。凌統が見舞った蹴が見事に後頭部に入ったのだろう。
「うぐっ…!」
緑の衣服が血を混ぜた吐出物で汚れていく。『とどめを』と棍を握った凌統の前を赤い物が遮った。
「玄徳様!」
誰なのかなど考える必要もなかった。
皺がれた彼の手は、かつての妻、尚香の頬へと伸ばされ、迷うように宙をかいた。
「げん…っく…さまっ!」
尚香はその手を取り、吐出物で汚れた唇に自らのそれを当てた。
凌統はそれを黙ってみていた。
「乱世なんて…」
泣きそうな声が、耳に付いた。
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