竹簡2

□散華
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ひらひらと、花弁が舞う。

華奢な掌で受け止めた花弁は、風に吹かれてまたひらひらと何処かに飛ばされてしまう。

「父上…」

あどけない、だけど憂いを宿した声。

「どうしたのです?」

光秀は娘の背に合わせてしゃがみ、瞳を合わせると言葉を促した。

「花は、散ると知っていて何故咲くのですか?」

ひらひらと舞う花弁をみて娘は父に問う。刹那、驚きに見開いた瞳を細め優しく娘の頭を撫でて、光秀は答えた。

「それが運命であり、使命だからですよ」

「わかりませぬ」

眉を寄せ難しい顔で呟く娘に微笑ましい気持ちになって、光秀は娘を抱き上げた。

空が、常より近くなる。娘は瞳を煌めかせた。

「息を吸ってごらんなさい」

言われた通に深呼吸をする。清々しい空気が体を満たす。

「…息がこうして吸えて、『生きて』いるのも、玄妙に世界が創られているからです。それらは、きっと途方もなく大きな神仏の御意志。
私もあなたも、生かされている。

この世に生を受けたならば、命を持ってその恩を返さなければなりません。

それが、運命であり生きた証を残す事であり『生きている』意味だと私は思うのです。」

「父上の話は難しくてわかりませぬ」

光秀は微笑み、解らないと膨れる娘の頭を撫でた。

「この植物にとっては、花を咲かせ、次代を紡ぐ事が運命であり、この世に生を受けた証であり、世界に対する恩返しなのでしょう。

花を咲かせ、貴女の目を楽しませ、種を育む、その為に散って行く。


解らないと、あなたは言いましたね?」

コクン頷く娘の目をしっかりと見て、光秀は言う。

「ならば、あなたはあなたの答えを見付けなくては。

人も花も、必ず散る。

どうして散るのか、どうやって散るのか、答えは自分で得なくては意味がないのですから」

ひらひらと花弁が舞う。

「はい、父上」

優しく笑う父の肩に乗った花弁が、ひらひらと落ちていく。

それを目で追って、いつか父の言葉に追いつきたいと思う。
父に抱き着いた娘の手にも花弁がひらひらと舞った。


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