竹簡2
□月光に君は何を見る
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月の光は一層冴え冴えと隣に佇む麗人を照らした。並んで座り、ともに月を見上げているのに、距離を感じるのはこの人が神聖に思えるからだろうか。
月に照らされるその人は美しい。月に還ってしまったという香芳夜姫のよう。
「・・・月は、どうしてこうも冴え冴えとしているのでしょうね」
光秀にいきなり問われて三成は少々驚いた。今の今までその横顔に呆けていた三成はまともな答えが返せず、眉根をよせて「どういう意味だ」と聊か無愛想にいった。それを静かに笑って光秀は応えた
「陽の光は温かいでしょう?だけど月にはその温度がない。同じように地上を照らすのに何故こうも違うのかと思いまして」
「なにを言い出すのかと思えば、またそのような拉致の明かない繰り言を…。」
現実主義の三成とはちがって、光秀はこうしてたまに夢見がちな事を言う。そんな彼の繊細な一面も好ましく思っているが、上手く伝える手段を三成は持ちえず、結局口から出るのは光秀の望んでいるであろう甘いものではなく、酷く味気ないものだった。
「だいたいそんなこと考えたところで答えが出るのですか?」
「出ませんね、多分。私、天文学に精通しているわけではないですし。でも、不思議に思いませんか?」
つっけんどんな三成に優しく笑って光秀は言う。その優美な笑みにどうしていいか解らなくなる。
「答えの出ない事を考えて意味があるとは思えません」
「三成らしい…」
刺々しい物言いに光秀はなおも笑う。けれど、その笑みは先ほどと違って僅かな蔭があった。
「光秀…?」
光秀は、漆黒の瞳に月を映す。その月に一体何を思っているのか、情緒豊かとは言い難い三成には推し量れず酷く歯がゆい。
「人は思考する生き物だと言いますが、三成のように『無駄な考えだと』一蹴出来る強さが羨ましい」
そう言って自嘲した。
なにを馬鹿なことを。三成は唇を噛んだ。口にしないだけで、無意味なことを考えてしまうのは自分だって同じなのだ。
光秀の言うように、本当に強かったならこんな想いはしないだろう。
「光秀」
「なんです…っん」
呼びかけに応えようとした唇は塞いだ。
俺だって埒の明かない事を思うのだ。
お前がいつか月に還ってしまうのではないのかと
月光にお前の姿を見る