竹簡2

□月光に君は何を見る
1ページ/2ページ

月の光は一層冴え冴えと隣に佇む麗人を照らした。並んで座り、ともに月を見上げているのに、距離を感じるのはこの人が神聖に思えるからだろうか。

月に照らされるその人は美しい。月に還ってしまったという香芳夜姫のよう。

「・・・月は、どうしてこうも冴え冴えとしているのでしょうね」

光秀にいきなり問われて三成は少々驚いた。今の今までその横顔に呆けていた三成はまともな答えが返せず、眉根をよせて「どういう意味だ」と聊か無愛想にいった。それを静かに笑って光秀は応えた

「陽の光は温かいでしょう?だけど月にはその温度がない。同じように地上を照らすのに何故こうも違うのかと思いまして」

「なにを言い出すのかと思えば、またそのような拉致の明かない繰り言を…。」

現実主義の三成とはちがって、光秀はこうしてたまに夢見がちな事を言う。そんな彼の繊細な一面も好ましく思っているが、上手く伝える手段を三成は持ちえず、結局口から出るのは光秀の望んでいるであろう甘いものではなく、酷く味気ないものだった。

「だいたいそんなこと考えたところで答えが出るのですか?」

「出ませんね、多分。私、天文学に精通しているわけではないですし。でも、不思議に思いませんか?」

つっけんどんな三成に優しく笑って光秀は言う。その優美な笑みにどうしていいか解らなくなる。

「答えの出ない事を考えて意味があるとは思えません」

「三成らしい…」

刺々しい物言いに光秀はなおも笑う。けれど、その笑みは先ほどと違って僅かな蔭があった。

「光秀…?」

光秀は、漆黒の瞳に月を映す。その月に一体何を思っているのか、情緒豊かとは言い難い三成には推し量れず酷く歯がゆい。

「人は思考する生き物だと言いますが、三成のように『無駄な考えだと』一蹴出来る強さが羨ましい」

そう言って自嘲した。

なにを馬鹿なことを。三成は唇を噛んだ。口にしないだけで、無意味なことを考えてしまうのは自分だって同じなのだ。

光秀の言うように、本当に強かったならこんな想いはしないだろう。


「光秀」

「なんです…っん」

呼びかけに応えようとした唇は塞いだ。

俺だって埒の明かない事を思うのだ。



お前がいつか月に還ってしまうのではないのかと


月光にお前の姿を見る
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ