書庫室2

□言葉の海に溺れそう
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空の高い季節だった。
星の綺麗な夜だった。
息の白い冬だった。

「寒いけど、冬の空は格別だよね」
缶珈琲を片手に言う都筑の背中をただみていた。
瞬く星の数に負けないくらいの言葉を、俺が言えずに飲み込んでいるなんて知らないんだろう、この背中は。
何年経とうが越えられない広い背中が憎らしくも愛おしい。
「…」
溜息は、やはり白かった。
俺の溜息に気付いたのか、都筑は振り向く。その顔に、意地の悪い笑みを湛えて。
「ずいぶん、熱い視線をくれるね密」
「……なんの話しだ」
冷静を装ったところで開いた間は取り消せない。にやけた都筑は、自分のコートですっぽりと俺を正面から包み込んだ。
「…っ、なにして」
「密の心臓の音、凄いね」
「うるさい」
ふて腐れて返せばクスクスと忍び笑いが聞こえた。
ムッとして脛を蹴ると都筑は小さく呻いた。
「密のそういう所、好きだけどね」
「…っ」
縮み上がった心臓ごと抱きしめられて、俺はまた、言葉を失う。
溢れた想いが、言葉が胸の内を濡らしていく。
お前が言葉を塞ぐから、俺はお前への言葉に溺れそうなんだ。
「…っん」
塞ぐ唇は甘く。
熱を燈した口付けは、冬の夜を静かに焦がしていった。





END
 

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