竹簡2
□探る境界線
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「暑くないか?」
「え?」
下ろしたままの黒髪を一房指に絡めて元親が問う。
「上に纏めた方が涼しいだろう」
言うが早いか、何処から取り出したのか櫛で光秀の髪をで梳ずり始めた。
「元親殿、自分でやります」
「気にするな、友だろ」
そう言って、長い指で器用に光秀の髪を結う。さらりとさらりと撫でられるようで心地良いが、時折、耳やうなじに指がどうにも気恥ずかしい。
元服前の児童のように高い位置で結われた髪に、なんとも言い難い違和感を抱いて、伺うように光秀は元親を見上げた。
すると元親は、優しく破顔して答えた。
「似合うな」
「そう、ですか?」
「嗚呼」
目を細めて延ばした指が、光秀の細い顎を掬い上げる。あまりに自然な仕種に成されるままの光秀に元親は小さく笑った。
「綺麗だ」
「………っ!?」
友に囁くにはあまりに甘く、そして近い距離にようやく光秀は顔を赤くする。
その様子に元親の肩が小刻みに震えた。
「もう…!また、私をからかって!」
「すまない。許せ、光秀」
いいながら子供のように抱き着かれて光秀は脱力する。
謝るときに抱き着くか、普通。
そんな事を頭の隅で考えつつ、その背を軽く叩いて『もういい』と伝えた。
友とはなんだろうか。
いっそ定義が怪しいほどの距離に戸惑いながら、それでも僅かに触れる体温は心地よかった。