竹簡2

□妖花
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人里離れた山奥に、山に迷い込んだ旅人を喰らう妖しが住まうという。
その妖しは、艶やかな黒髪の麗人だという。

そんな下らない噂に踊らされて訪れた山奥の寂れたあばら家。そこに、その麗人はいた。記憶の中と寸分たがわぬ美しさで三成に微笑んでいた。

数えるほどしか逢った事のないその人は、いっそ神秘的なほどに美しかった。身近に接した人にはまた別な印象を与えていたのかもしれない。
だが極稀にしか顔を逢わせない三成にとっては、優雅で隙のない身のこなしも、教養の高さを窺わせる眼差しも、囁くような落ち着いた美声も、艶やかな黒髪も、同じ地上で息をするものとは思えないほどに美しく見えた。
憧憬を抱いていたと言えるかもしれない。主に対するのとはまた違うそれは、確かに三成の胸の裡に息づいていた。

その人が起こした愚行を冷徹に嘲笑う一方で、行き場のないやるせなさと憤りをずっと抱えていた。
結局、その思いがこんな山奥まで三成の足を動かした。

そして麗人は、三成の知る明智光秀の面影そのままに微笑んだ

「こんな山奥までようこそおいでなさいました」

自分についぞ向けられることのなかった、旧友に向けるような親しげな声音と温かな笑みで麗人は三成を誘いこんだのだ
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