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□結 10話
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『やっぱり可愛いなぁ』


すやすやと寝息を立てる彼女を見て、何だか心が温かくなる。
彼女と初めて出会ってからもう一ヶ月くらいだろうか。家が近くだったという偶然もあいまって、彼女と時間を共にする事が多くなったけれど、綺麗なその容姿に比例するように、その心根や性格も謙虚で優しくてひたむきで綺麗なものだった。その謙虚さが仇となって自分に自信が無さそうな所が玉に瑕だけど。でも自分の魅力に無頓着で全く気付いてないような、そんなところも彼女の魅力なのかも知れない。きっと周りが支えたくなるような、そんな中心に立つ存在になってくれるのではないかと、半ば自分本位な期待をしている。



そんな事を考えながら彼女を見つめていると、瞼が揺れて夢莉ちゃんが目を覚ました。


「ん…?あ、彩さん、すみません、私まで寝てた…」
『いやいや、私が先に寝てたやんな。ごめんな、人んちで…』
「全然大丈夫です。今日、朝早くからレッスン場に行ってたんですか?」
『そんなにやで。9時くらいかな』
「充分早いですよ…すみません夜まで付き合わせて」
『ぜーんぜん。ご飯も片付けも、ありがとなぁ』
「喜んでもらえて良かったです。こちらこそ、お菓子ありがとうございました」
『あ、クッキー食べたいな。…でももうこんな時間なんや…』
「ほんとだ、もう0時過ぎてる…」
『やんな。じゃあそろそろ、帰らんとな』



そう言って立ち上がろうとした私の腕を夢莉ちゃんが掴む。




「え、こんな時間に夜道を歩いたら、危ないですよ」
『大丈夫やろ。そんな遠くないし』
「こんな時間に歩かせるなんて、無理です。泊まって行きませんか?」
『え、でも』
「私の部屋着で良ければ、引越の時に買ってまだ使ってないものもありますし」
『…………じゃあせっかくやからお言葉に甘えようかな』
「はい、ぜひ」



とことん優しい子だな、と眉が下がる。歩いて十分程度とはいえ、確かに夜道を一人で歩くのは物騒だ。帰る、と言ったら夢莉ちゃんのことだから送りますなんて言いそうだし。そうすると私を送った帰りにこの子が一人になってしまうし、明日は日曜日で休日だし、彼女の厚意に甘えることにした。




本当は初めて訪れた他人の家で眠るなんてことも、こんなに長い時間居座るなんてことも、普段はもっと気を張ってしないはず。でも彼女といるその時間はなんだか心地良くて、もう少しここにいたいな、なんて思う自分がいる事も確かだった。


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