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□結 9話
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『お邪魔しまーす!わ〜綺麗にしてるやん、夢莉ちゃん』
「まだあんまり物がないだけです。彩さん、座っててください」
『えーなんか手伝うよ』
「いや台所も狭いので…待っててください」
『そう?じゃあお言葉に甘えて。あ、これお土産』
「ええっ。そんな、いいのに…」
『いやお家にあっただけのお菓子やから』



どう見てもわざわざ買って来たようにしか見えないクッキーバッグを受け取ると、彩さんがいつも自分が座っているクッションソファに腰掛ける。あの彩さんが私のお部屋にいる、何だかそんなことにすら感動してしまって、大それたことをしてしまっているようで急に緊張する。唐突にお家に誘うなんて失礼ではなかったかな、やり過ぎたかな、なんて思案したけれど、そういえば初めて会った日に、今度遊びに行っていい?なんて彩さんも言ってくれていたしな、と思い出す。





『夢莉ちゃん、テレビ点けていい〜?』
「あ、もう、はい。何でもご自由にどうぞ」
『何でそんなどもってんねん』



動揺を見透かされて恥ずかしい。彩さんをあまりお待たせしないようにと作業のスピードを早める。まあカレーなんて具材を切って入れるだけ、なのだけど。ごろごろの野菜と一緒にルーを入れて、お母さん直伝の隠し味、コーヒーを少し加える。これでコクが出るらしい。その真偽はこれを入れないカレーを食べたことが無いから分からない。充分に煮込むと我ながら香りも見栄えも良い仕上がりになった。




「彩さん、できました〜」
『わ〜カレーやん!めっちゃ良いにおい!』
「お好きでしたか?」
『カレー嫌いな人とかおる?
わ、お野菜もいっぱい』
「彩さん自炊あまりしないって言ってたから…」
『はは、栄養補給ってこと?ありがとなぁ』
「いえいえ。お口に合うといいのですが」
『うん、じゃあ頂くな』
「どうぞ」
『頂きま〜す』




彩さんが私の作った物をお口に運ぶ、その瞬間はまた緊張した。つい不安げな顔で彩さんを見つめてしまう。



『ん〜!美味しい〜!』


そうやってくしゃっと目を閉じた笑顔で言ってくれて安心した。


「良かったぁ…」
『ほんまに美味しい、なんか入れてる?』
「はちみつとか、コーヒーとか」
『えっすご』
「美味しかったなら、良かったです」
『ほんまに美味しいよ、これは』


夢莉ちゃん天才、だなんて言いながらスプーンを進められて嬉しい。自分でも口にしてみると、確かに今日のは我ながら特に美味しかった。彩さんのために、という思いまで混じったのかな、なんて自分の気持ちに苦笑する。
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