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□スタンド・バイ・ミーA
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『夢莉とこうしたいって言っても?』
と重ねられた手。心臓の音が彩ちゃんにも聞こえてるんじゃないかってくらい煩い。手だけじゃなくて全身が熱くなってくる。



「こうしたい、っていうのは…えと」


しどろもどろになるな自分!今ここで決めろ!と頭でもう一人の自分が鼓舞してくる。うるさい。





『…分かるやろ』
「………彩ちゃん、」


彩ちゃんが恥ずかしそうに俯く。あぁ、彼女だって勇気を出した行動だったのだ、その気持ちに応えなければ。今まで心の中で何度も彩ちゃんに向けて唱えていた言葉を口から振り絞る。




「………彩ちゃん、好きです。人として」
『人として?』
「女の子としても好きです。そういう意味で好きです」
『うん…』
「彩ちゃんと、付き合いたいです」
『うん』
「彩ちゃんは、どうですか」
『私も、夢莉が好き…大好き』




彩ちゃんの言葉が頭の中で響く。何度、そんなことがあるわけないと自分を戒めただろうか。でも同時に、何度そうであってほしいと願っただろうか。人生で初めてのこの気持ちを教えてくれた彩ちゃんが、彩ちゃんも、私のことを好きであってくれたなら、それはどれだけ幸せなことなのだろうか。



想像したことがない訳では無かったけれど、あまりの嬉しさとか驚きとか諸々の感情で眩暈がする。そんな中でも、きっとこの言葉だけは私から言わないと。



「彩ちゃん、付き合ってください」

彩ちゃんをぎゅっと抱き締める。細くて柔らかい身体。こんなに正面から抱き締めたことは意外と無かったな。




『恋愛禁止やけど、いいんかな』

少し眉毛を下げて笑いながら、彩ちゃんが抱きしめ返してくれる。




「同性なら良いみたいなルールありませんでした?」
『そんなんないよ、多分』



「じゃあやめる?」
『……やめない』
「私も。絶対に幸せにします」
『なんか気が早いな』




勢い余ってプロポーズみたいな言葉が漏れ出てしまってまた笑われた。気恥ずかしくなって私も笑う。でも本当の気持ち。


腕の中の彩ちゃんと目が合う。少しの間と静寂。え、もしかして、これはそういう感じですか。そんな、もうそんなことを彩ちゃんに、私がしてもいいんですか。私の中の未経験な少年が大慌てしている。正解が分からない。でも彩ちゃんがとろんとした目で私を見つめる。可愛くて心臓が爆発しそう。彩ちゃんに、触れたい。今まで触れたことが無いところに、触れたい。


ゆっくり、おずおずと顔を近づけて、彩ちゃんの唇に自分のそれを重ねた。これが、私達の初めてのキス。





「やわらかいいい………」
『へへ、真っ赤やん』


今の自分は漫画でよくある、顔を茹でダコみたいにしてシュ〜って擬音語がつけられてるような、あの感じのまんまだと思う。顔が熱い。彩ちゃんにこういうことをしていい自分になれた事実が信じられなくて泣いちゃいそうだ。




「ごめんね、いっぱいいっぱいで。」
『ううん、可愛い、夢莉』
「少しずつ、頑張ります…」
『何を頑張るん?』
「それは………」



彩ちゃんがニッと笑いながら意地悪く聞いてくる。その続きを言えるほどの私じゃないことも知っているくせに。そうやって上手な彼女を恨みながらも、これから作っていける彼女との未来に心が踊った。きっと簡単なことばかりではないかもしれないけれど、そんなことよりも、こんなにも心を奪われている人が自分の気持ちに応えてくれることは、きっと奇跡なのだと私は知っている。



「彩ちゃんを幸せにすることを頑張る」
『…そんなんいいよ。夢莉がいてくれれば』




どんな未来がこの先にあっても、絶対に彼女の傍にいたい。


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