short

□アビィ・ロード@
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早く、会いたい。一日、いや一秒すら長く感じる。



今、彩ちゃんは撮影で海外に行っている。非日常的な風景や食事の写真を楽しそうに送ってくれる彩ちゃんはとても可愛いけれど…
きっといつもと変わらない日常を送りながら待っている私の時間の流れ方とは違うんだろうなぁ、と空を見つめる。




たった一週間ほどだけど、驚くほど毎日が過ぎるのが遅い。彩ちゃんが帰ってくるまであと何日だ、と真剣に考えたら出発してからまだ二日しか経っていなかった。ということはあと五日。24時間×5=120時間?!無理無理無理。死んじゃうよ。我ながら呆れるほど、彼女に心酔していることを改めて自覚する。




彩ちゃんが出発して三日目。今日は早朝から夜までお仕事が入っていたので、あまり彩ちゃんのことを考えずに済んだ。

彩ちゃんが出発して四日目。今日は昼までゆっくり過ごして、午後はお稽古。今日の彩ちゃんは一日中撮影だったようで全然連絡が来なく、夜寝る前に少し泣いた。


彩ちゃんが出発して五日目。彩ちゃんから昨日の撮影で行った場所の写真がたくさん送られてくる。素敵な景色の数々に、私も彩ちゃんとそこで時間を共有したかったな、なんて胸を焦がす。撮影が終わり、少し観光をしているみたい。目に見えてはしゃいでいて、可愛い。

彩ちゃんが出発して六日目。喉が渇いたように彩ちゃんを求めてる自分。彩ちゃんという潤いを早くください。明日、会える。



そして、ついに彩ちゃんが帰ってくる日。
私の仕事もオフなので、今日は彩ちゃんのお家に先に行って待っている約束。いつもはお昼まで眠る休日だけど、なんだか早く目が覚めた。コーヒーを淹れながら、彩ちゃんに会ったらまず抱きしめて、おかえりって言って、ぎゅーってして……ってそれは抱きしめてと同じか、などと一人でつっこみながら頬がにやける。少し会えないだけで、自分がこんな風になるものなのか、と新しい発見にしみじみする。彩ちゃんはいつも新しい私をくれる。




夕方、いそいそと準備をして彩ちゃんのお家に到着。久しぶりの彩ちゃんの香りにすでに胸が高まる。

少し一息ついていたら、彩ちゃんからのLINE。

『ごめん、家に着くのちょっと遅れる』
「え、大丈夫?どのくらい」
『1時間くらいかな』
「そっか、気をつけてね、待ってるね」




更に一時間お預けか…とうなだれる。もともと21時くらいにお家に帰ってくるという予定だったはずだ。彩ちゃんは飛行機の中で夜ご飯を食べると言っていたし、私こんなに早く来なくても良かった説。はぁ、近くのコンビニでも行って何か買ってこよう。


19時。適当に買ってきた夕食を適当なテレビ番組を見ながら食べる。

20時。ご飯も食べ終わり、ただ彩ちゃんを待つだけのモードになる。万全の自分で迎えたいので先にシャワーを浴びておくことにする。

21時。砂漠での長かった旅が終わるような気分。修行のような一週間だった。よく乗り越えました、私。とかいう達観した気持ちになる。


22時。ガチャ、と玄関先で音がする。


『ただいまぁ』

愛しい愛しい声がする。



ソファから飛び起きて、玄関へ走ると、大好きなあの人の姿がそこにあった。


『夢莉、ただいまー!』
「彩ちゃん、おかえりっっっ」



勢い余るほどきつく彩ちゃんを抱きしめる。



「会いたかった………」
『そんな、一週間くらいやん』
「こっちは長かったの」
『…私も会いたかったで。ただいま』

彩ちゃんの声色が優しくなって、抱き締め返される。心臓とかお腹の辺りがふわふわするような、高揚感。幸せの感覚って、多分こういう感じ。





「……疲れてるのにごめんね、荷物重たかったね」
『夢莉にお土産いっぱい買ってきてしまってるからな』
「お土産も嬉しいけど、彩ちゃんが帰ってきたことが一番嬉しい」
『何やねんそれ』
「早くゆっくりしよ」
『うん、疲れたぁ』



一週間会えなかっただけで、破壊力がこんなに増すのかというくらい彼女の可愛さと愛しさにずっとどきどきして落ち着かなかった。待っている間は永遠かよというほど長く感じたけど、会えない時間もスパイスの一つ、とかいうどこかの誰かの言葉は本当かも。





『でなー、これが紅茶のクッキーで、これがリップで』
「まだ出てくるの」
『だって全部可愛いし美味しそうやし』
「彩ちゃんがほしかったものやん」
『ちゃうねん、夢莉と共有したかったの!』
「……可愛い……」



机の上にお土産屋さんかな?というくらい雑貨やお菓子やコスメを並べられて、その数だけ離れていても私のことを思ってくれた時間なのだと感じて、また愛しさが溢れた。


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