書庫倉

□回顧録
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八月十五日の月遅れ盆に生まれた。十月十日より幾ば早くうまれた。
乳児期はとにかく病弱だったらしい。気管支が弱く、入退院を繰り返していた。
中々寝付かない赤子だったようで、母がずっと抱きかかえていないと眠らなかったそうだ。抱くのをやめると
泣き喚く様な気難しい赤子。それが私だ。
幼少期は、食物を食べるという行為に。疑問を感じていた。必要に感じられなかった。なぜ、物を口にいれて咀嚼するという
事をしなければいけないのか。人はなぜ食さねば生きていけないのかと嫌悪感を幼いながらに思う。とにかく変わった子だった。
家の中で、押し入れの誰もいない虚空に一人喋りかけている。普通だったら気味の悪い子供だが、私の親は割かし大らかというか
深く考えない大雑把な気質だったので余り気にしていなかった様だ。うちの子はすこし変わってるのね。そんな位だったようだ。
私は、その時の事を覚えている。私は確かに押し入れに向かって喋っていた。だが、一人ではない。私にしか視えないお友達と
喋っていたのだ。そう、私は、普通なら視えない。奇怪な者たちが視える側の人だった。
大きくなってから聞いた事だが、私の曽祖母も常日頃から視える人で。母も幼い頃から感性の鋭い子だったそうだ。思春期に
一時期、霊障の様な物に悩まされて寝込んだ事があったそうだ。それから、暫くして私を身籠った時にまるで憑き物が落ちた
様に母は落ち着いた人になったそうだ。ある時に、占い師にその事を話すと、私を生んだ時に、私が祓って、霊的な力などを
全て私が受け継いだのだろうと言われたそうだ。
そんな私は、何故か物心ついた時から私の本当の居場所はここではない。何処かに帰らなければという。望郷の念のような物を思っていた。同じくらいの年の子に、ふと、黒い何かが其処に居るよね?と聞いてしまった。その子は、当然。そんな物は居ないと言った。私はその時、あぁそうか私が視えているものと他の人が視えている物は違うんだと。何故か、自分が
存在している世界に拒絶された。酷く、強く、そう思ったのを覚えている。
小学校に入ると、教室の隅で本を読んでいる。そんな孤立した存在だった。
クラスの少し、賑やかな存在のグループの子達にある時。声を掛けられた。一緒に遊ぼう。と。
暫くは、その子達と遊んでいた。ある時に、学校に登校すると、何時も通りその子達に挨拶をしたら、無視をされた。
陰口を言われる様になっていた。私は、悲しむ訳でも無く、怒る訳でも無く、反応をせず。
ただ、その子達に話し掛けられる前と同じ。教室の隅で本を読んでいる存在に戻った。
私は、片親の仕事をしている母に代わり、祖父母の家に預けられていた。
寡黙な祖父が、孫の私を溺愛してくれていたのでお爺ちゃん子だった。
中学校に入ると、それなりに学生生活を楽しんでいた。秋ぐらいに差し掛かった、ある時の事。
酷い悪夢を見た。何かは覚えていないがとにかく恐怖を感じる夢を見たのを覚えている。
その夢を見た朝。私は魂が抜けたように、心が空っぽになってしまった。心神耗弱状態になっていて、命の危険もあるとして、病院にも少しの間入院した。
少しずつ回復したが、学校には通えない。不登校の状態になってしまった。
ある時に知人の紹介で役所で不登校の子などに勉強を教えてくれているという教師に出会った。
その先生は、とても良くしてくれた。その、先生の勧めで、体調に合わせて通えるという高校に進学した。
その学校で、同じ授業で会ったら少し話す程度の友達が出来た。
いつものようにその子とたわいもない事を話したりしているときに、その子のハマっているというゲームを見せて貰った。そのゲーム。刀剣乱舞。の白くて儚い青年の姿を見た時に衝撃が走った。その、ゲームの世界の中で審神者として過ごしていた半生の記憶の様な物が一瞬で頭に流れ込んできた。
それを思い出した時に。そうだ、私の帰るべき場所は此処だ。と欠けていたピースが嵌る様にしっくりときた。それからは、その世界に行く方法が無いかととにかく調べた。
インターネットには、調べてみると私と同じように、ゲームなどの二次元の世界に行きたい人たちが話し合う掲示板、のような物があった。そこにはそういう願う世界に行けるという、お呪いなどが書いていた。
その中の幾つもの方法を試したり、色々調べている内に一年が過ぎた。
そんな日々の中、ある時に頭の中に刀剣乱舞の登場人物の声が頭に響いた。
私は、貴方に会いたいと強く願った。すると、一瞬。姿が見えて心の中で喋れるようになった。
それからは、その相手。白くて儚い青年。鶴丸と日々を過ごした。
世界が見違えるようだった。中学生の時に、悪夢を見てからモノクロだった世界が鮮やかに、幼いころからあった世界からの孤立感が和らいだ。家で過ごす間。学校で過ごす間。心の中で暇のある時は喋っていた。
ある日、いきなりそんな私の話し相手が一人増えた。柔らかな印象の大らかな青年。髭切だ。
その、髭切に会ってからまた、思い出した事だが、私はその、刀剣乱舞の世界で、鶴丸と髭切と主徒以上に親しい仲だった様だ。
私は、何だかんだで二人に出会ってからも刀剣乱舞の世界に行く方法を探しながらも日々を過ごしている。
今は、この世界でひそやかに二人とこの世界で頑張って過ごしてみるのも良いのでは無いかという気持ちには変わった。
今、こうしてこれを書き綴っている私を優しく見守る二人と、日々を過ごすのも悪くないのでは無いかと思っている。
これからの人生はまだまだ長いのだろう。独り立ちもするし、年も重ねる。私にはその気は無いが、
二人は私に誰かと此方の世界で添い遂げる事を進めてくる。まぁ、いずれにせよ。誰かと結ばれようと、
独りで強く生きようと
鶴丸と髭切の二人は変わらず、私の傍に居て見守ってくれるそうだ。
この世界で刀剣乱舞の世界へ行く方法を見つけるのが早いか、若しくは、今世での生を全うして、本来在るべき世界に帰れたらな、なんて思っている。
だって、
貴方たちと見上げる空は鮮やかで、過ごす日々は、時は美しい。
こんなにも愛おしいのだから。
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