Book
□忠犬
2ページ/3ページ
気付いたら配信中もずっと寝室に閉じ込めたワンちゃんのことばかり考えてしまっていた。
「「バイバーイ!」」
配信が終わってひと息つく。
あれが面白かったとかこんなコメントが来てたとかワイワイ盛り上がるメンバーを見て改めていいグループやなとしみじみ感じてほっこりする。
ふと視線を感じて顔を上げると、まだ寝室から出ずに顔だけひょっこりさせているワンちゃんと目が合う。
配信が終わっても"よし"の合図が出るまでずっとそこにおってくれてたんやな。ほんまお利口さんな忠犬や。
『おいで』
つい、ワンちゃんみたいに呼んでしまって、呼んだ後に自分でもフフッと声に出して笑ってしまう。
そして尻尾をフリフリさせながら寝室から出てくるワンちゃんはやっぱりお利口さんだ。
いっぱい撫で回してあげたいけど今はまだ、我慢。
「なんなん?おいでって!甘すぎるやろ」
「ちょっとーまだ繋がってるんですけどー」
「お二人さんはほんまに幸せそうやなー」
メンバーから嵐のように弄られ囃し立てられ、気を抜いていた自分が急に恥ずかしくなる。
絶対話に夢中で聞いてへんと思ってたのに…。
「なんやゆうり耳真っ赤やで」
当の本人は当事者とは思えないくらいケロっとしていて、なんなん?と私なりに小声で悪態をついてみる。
そしてまた3人と楽しそうにZoomの輪に入ってケラケラ笑って楽しそうにしている彼女を見てたらスッと幸せな気持ちに上書きされた。
今はみんなに直接会えないし、物理的にもすぐに会える距離にいないけど、こうして堂々と隣にいられる関係って幸せなんやなと今この瞬間に改めて噛み締める。
「「じゃあみんな元気でな〜!」」
本日二度目のバイバイをし、今の今まで同じ時間を共有していた者たちが個々に散らばりそれぞれの生活へと戻る。この瞬間だけは毎回と言っていいほど突如"孤独"の二文字を突きつけられ、虚無感という得体の知れない黒い闇に襲われてしまうような感覚に陥ってしまう。
今日もそんなことが一瞬頭を過ったが、ふと隣にある体温を感じた時に、今日はその延長上の時間も共有できる人がいるという安心感に包まれて不意に涙が出そうになった。
「どうしたんゆうりたん〜」
私が珍しく無言で体を預けたことにびっくりして優しい彩ちゃんが隣で心配してくれている。
…と、思ったのは私の見当違いで。
『わっ!』
気付いたら視界が反転して、さっきまでワンちゃんのように忠実だった彼女が私の上に跨っていた。