Book
□嫉妬の沼に
1ページ/3ページ
彩ちゃん遅いなぁ…。
時刻は23時を回ろうとしていた。
いつもならスタッフさんとの打ち合わせも、ライブの後の打ち上げも、22時までには切り上げて帰ってくるのに…。まさか、事故に遭ったのではないか?
いや、でもそしたら私たちの関係を知っている彩ちゃんのマネージャーさんから連絡が来るはず…。
そんな葛藤をしながら23時半を迎えた。
…ガチャ
「ゆうりぃ〜!ただいまぁ〜!」
彩ちゃんっ!?
光の速さで玄関にたどり着くと同時に、私の心配をよそに私の首に手を回しながらよたよたを靴を脱ぎだす小さな年上の彼女。
…はあ、なんだ、上機嫌か。
じゃなくて、『どうしたん?遅かったね』とできるだけ冷静を装って聞くと「ん〜」と過剰に甘えてくる彼女からは微かに甘ったるいアルコールの匂いがした。
…今日はリハーサルだけやって聞いてたのに飲みに行ってたんだ。
お酒のせいで熱くなったほっぺたを私の肩にスリスリしている彼女がようやく靴を脱いだので、その抱き付かれた格好のままズリズリとリビングに連れていく。
私の身体が一瞬で熱くなったのは彼女の帯びた熱のせいではない。
安堵と少しの怒りと…醜い感情だ。