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□どうする?【仙道】
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ある日の部活の準備中、私はボールを踏んづけて転んでしまった。床にドスンと音を立てて倒れたものだから、近くにいた部員達が駆け寄ってくる。
「すごい音したけど大丈夫?」
その中にいた仙道がそう声をかけてくる。
「だ、大丈夫大丈夫っ!ちょっと転んだだけだけから!」
私は注目を集めてしまったことが恥ずかしくなり、じんわり足首が痛むのを我慢しながら笑ってみんなにそう告げた。
「ほんとに?」
「ほんと!ほんと!」
私の言葉の裏を覗こうとしているのか、仙道がまじまじと私の目を見つめてくる。私は冷や汗をかきながら、足首にそっと手を当てて笑ってやり過ごす。
「そ…、じゃあみんな持ち場戻って〜」
仙道が穏やかな声でそう言うと、部員達は元いた場所へと戻って行った。私はその部員達の背中を見ながら、ふぅと息を吐き胸を撫で下ろした。
「ふぅ、じゃなくて保健室行くよ」
いつの間にか私の後ろに移動していた仙道の声に全身がビクッと驚いた。
「えっ?!なんで?!」
「なんでもなにも、足捻ってたでしょ」
「そんなことない!」
「そんなことある。嘘つくんじゃないの」
仙道は屈み込むと、足首を隠すように置いていた私の手を持ち上げて、もう片方の手で痛めた足首にそっと手を当てる。「まだ腫れてはいないか」と、小さく呟いた。
「ほら!腫れてないから大丈夫!」
「はぁ、あのねぇ…」
仙道は私の手を握ったまま小さなため息を吐いた後、ジッと目を見据えて続きの言葉を口にした。
「どうしても行かないって言うならお姫様抱っこで連れてくけど」
「どうする?」とまでは言葉にはしないが、真面目に私に問いかけてくる。これは、拒否すると本気でお姫様抱っこして連れて行く気だ。
校内を仙道にお姫様抱っこされて歩くなんて、そんな目立つこと出来るはずもない。
「お姫様抱っこは…恥ずかしい、です…」
私は観念して小さく呟いた。
「んじゃ、おんぶね。はい」
そう言って仙道は私に背を向けてしゃがみ込む。大きな背中が目の前に広がる。
「いやいや!歩く!歩くから!」
「なに言ってんの、ダメに決まってるでしょ」
「いや、ほんと!けんけんして行くから!」
「そこまで言うなら、お姫様抱っこしようか」
「…それは勘弁、して…ください」
そんなこんなで、体育館から保健室までの道のりを仙道におんぶされながら移動する羽目になった。お姫様抱っこよりはマシかもしれないが、これはこれでかなり目立つ。
ボールを踏んで転んだことなんかよりも、仙道に背負われていることの方が何倍も恥ずかしい。
恥ずかしくて顔を覆いたくなるが、仙道の首元に顔を埋めるわけにもいかない。片手で仙道にしがみ付き、空いた手で自分の目元だけを隠しておいた。
それでも心臓の音は隠せない。
どうか伝わっていませんように。