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□聞いて【仙道】
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「はぁ…」
これ見よがしに後ろの席で溜め息を吐いている。私は前を向いたまま聞こえないフリをする。
「あーあ」
今度は長めにはっきりとした声まで付けた溜め息だ。それにも私は無言を貫き、頑なに後ろの彼を無視する。
背中を何かで突かれる。そして控え目な溜め息が聞こえる。
私は仕方なく椅子の背もたれに手を掛けて、腰を捻って後ろの彼を振り返る。
「仙道くん、呼びました?」
この声掛けを何度しただろうか。
「はぁ…」
仙道くんは私をチラリと見た後、目を伏せて、私の問いに答えることなく、また小さく溜め息を吐く。今度は私が溜め息を吐き、前に向き直ろうとするが、その制服の二の腕辺りの布をちょこっと摘まれ、阻止される。
「どうしたのって聞いて?」
大きな身体を机に預けた彼は上目遣いで私にそう言う。
「どうしたの」
私は抑揚のない一本調子で言葉を発する。
「俺ね、悩んでんの」
「あぁ、そう」
そうとだけ告げて教室の正面を見ようと捻った身体を戻そうとするが、また制服を指先でチョイチョイと引っ張られる。
「どんな悩みなのって聞いて?」
全く、毎日毎日なんなのだろうこのやり取りは。私は負けじと大きな溜め息を床に向けて吐き出し言う。
「どんな悩みなの」
「俺の前の席の子が振り向いてくれないんだよね」
「今振り向いてるじゃない」
「うーん、そういうことじゃないんだけどな」
眉毛を八の字に下げながら薄っすら笑う彼を一瞥して、私は元の姿勢に戻ってシャープペンを握る。
私が嫌な顔をしながらも、毎日この小芝居に付き合っていること自体が答えなのはわかっているだろうに、意地が悪い。絶対私からは言うものか。言わせたいのなら、さっさと「好きなの?」って聞いてくれ。