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□眼中になし【仙道夢】
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ホームルームが終わって、みんなが帰り支度を始める頃、その子は俺の所までスススっと近づいてきて隣の席に座る。
「ねぇねぇ、仙道くん。魅力的な女性とはどんなのかね」
なんだか変な口調で聞いてくる。ここのところ最近、毎日こんな具合だ。
「女の子らしい人じゃない?」
「女の子らしい。女の子らしいとは、なにかね」
うーむ…と唸りながら、俺の前の席に移動して、俺の机に腕組みをして置く。
「ちょっとしたところにもお洒落をしてる人とか?」
「ちょっとしたお洒落、か。例えば?」
「爪を綺麗に整えてる人、とか」
そう言って、目の前に置かれた手の指先をチョンと触ってみせる。形が綺麗に整えられて、表面もピカピカに磨かれた爪だ。
「それは前に聞いた。爪も頑張って磨いてみたけど未だ成果なし。他には?」
ぷくーっとほっぺを膨らませて、上目遣いで更に聞いてくる。
「うーん、明るいけどガサツさは出さない、とか」
「明るさ…でもガサツはダメ、っと」
頭の中にメモでもしているのか、指折り何かを数えるように、細く綺麗なその手を見つめて呪文のように繰り返す。
「あと、そういう可愛い仕草をする、とか」
小首を傾げて微笑んで、目を見つめて言ってみた。
「え!今のよかった?!こんな感じでいけばいいかな!」
俺の言葉に嬉しそうにしているけど、欲しいの反応はそれじゃない。
「よし!今の感じ忘れない内に行ってくる!さすが恋愛のエキスパートは言うこと違うね!ありがと!」
そう言うやいなや、鞄を持って立ち上がり教室のドアまで駆けていく。
ドアを出たところでこちらを振り返り、満面の笑みで小さく手を振ってから、どこかは知らないけど意中の男の所へ行ってしまった。
「エキスパートならこんなに苦労してないよ」
そう呟いて、重たい荷物と重たい気持ちを背負って立ち上がる。
「仙道、お前にもできないことあるんだな」
いつの間にか後ろにいた越野がニヤニヤと言ってきた。
「うっせー。仕方ないから部活いくわー」
「仕方ないからってなんだ、きちんと毎日来い!」
男二人で体育館に向かって歩き出す。
あー、もう早くフラれてしまえ。と、今度は俺が呪文のように心の中で何度も唱えた。