いろんな世界
□また会える
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なんだ。なんなんだこの状況は。
今、私はなぜこの気味の悪い笑顔の男5人に囲まれているんだろ?
そう。私は今日ひどく疲れていた。それというのも、あまりにいい天気だったので、調子に乗ってちょっと遠くのショッピングモールに出かけた。
そして、せっかくだからとちょっと買いすぎてしまったのだ。荷物は重いし、いつもよりたくさん歩かなければならなくて、足はくたくただ。
帰る頃にはすっかりテンションも下がってしまい、荷物の重さや足の痛さに耐えながら、ただぼーっと家までの道のりを歩いていた。
あまりにぼーっとしていて、目の前に人が立っていることすら気づかなかった。ぶつかってからはじめて気づき、はっとして、すみませんと言いながら周りを見ると、…囲まれていた。一体いつから居たんだ。
「君、かわいいねー」
「ふらふら歩いてるけど大丈夫ー?」
「おうちどこ?送っていってあげよーか?」
なんてにやにやしながら口々に言う男たち。いや、あなたたちに送って行ってもらうくらいなら死んだほうがましだ。ただそこを通してください。なんて言える程の根性もなく…。ただため息をつき、お構いなくと答える。
「なんだ?その態度は」
私の態度が癇に障ったらしい正面の男はすごく怖い顔で私を見ている。おっかないからそんな顔で私を見ないでください。
必死にその顔を見ないように目を逸らしていると、右側の1人の男が痺れを切らしたように
「もういいや、連れてっちまおうぜ」
なんて物騒なことをいいはじめる。いやいやちょっと待て。私の意思は?無視ですか?
『あ、あの、ぶつかってしまってごめんなさい。今回はぜひ見逃してほしいです。私はただそこを通して頂ければこの上なくうれしいです』
おっと。ついつい本音が混じり、嫌味な言い方になってしまった。
怒らせてしまったかとちらりと目の前の人の顔を盗み見ればば、おお。さっきより恐ろしい顔をしている。
実におっかない。
「なんだぁ?このアマ!!」
「来い!!後悔させてやる!」
言いながら私に向けて手を伸ばしてくる男たち。
「……ゃ…」
さっきはつらつらとさり気なく嫌味も言えたのに、いざとなると小さな抵抗の声しか出ない。
どうしよう。どうしよう。疲れと焦りで頭は回らず、どうしようだけが脳内で繰り返される。
とうとう私の後ろにいた男に口を塞がれ、捕まってしまった。
やばいやばい!!
助けを求める術をひとつ絶たれてしまった。
こうなっては緊張で強張ってしまった体を奮い立たせ、正面から近づいてくる男の大事なところを蹴り上げ、正面突破で逃げるしかないか。果たして震える体で相手にダメージを与えることができるのか。
なんて考えていると後ろから後ろの男とは違う声が聞こえた。
「何をしている」
とても低い声で掛けられた言葉は私に向けられたものなのか、彼らに向けられたものなのか分からなかったけど。
私を捕らえている後ろの男の更に後ろの様子を伺おうと出来るだけ後ろに目と意識を向ける。こいつらの仲間なら最悪だ。
すると後ろの男の肩越しにニット帽と鋭い目が一瞬見えた。
その目を見た瞬間、ああ。終わったこいつらのボスの登場だ…
冷や汗が背中を伝う。
「誰だ?お前」
正面の男がニット帽の男にかけた言葉で救われた。よかった!仲間じゃなかった。
「その子は俺の連れなんだ」
離してもらおうかとニット帽の男が言った瞬間、私は捕まっていた男から解放された。
助かった。とりあえずこの人は私のことを助けてくれるようだ。
でも連れだと言われても、私はニット帽で目つきの鋭いあなたのことなんて知りませんが?どちら様?なんて考えているうちに、私の左側にいた男もいつのまにか伸びていた。
回りを見ると、今ニット帽の男は私の右側にふたりいた中のひとりと対峙していた。
はっとしたときには正面の男と左側のもうひとりの男は私に向かって手を伸ばしてきていた。
「逃すなよ!!」
「こんないい女めったにいねぇぜ!!」
その男たちの目があまりに恐ろしくギラついていて、私は開いている左側からくるりとニット帽の男の後ろに回る。こわい怖い恐い。その目も勢いも怖すぎですから!!
隠れながらちらりとニット帽の男の顔をみあげると、目が合う。
どきっと心臓が跳ねて、慌てて目を逸らす。
だって。反則だ。その目は反則だ。
だって。その鋭い目の内に優しさを感じたから。
自分の後ろに回った私を確認して、鋭い目がふっと笑ったから。
その笑顔は反則だ。心臓がうるさい。顔が熱い。
ドキドキする胸を抑えるように胸の前で手を握り、そのニット帽の男が華麗に男たちを倒すのを見つめていた。