明日への扉

□7話
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き、きゃぁあああ!

作っている途中の料理を放っぽり出し、無意識に火だけは止めて家を飛び出す。

ーーあー、怖かった…

気が付くと私は家から飛び出し、玄関の外で膝に手を付き肩で息をしていた。呼吸を整え、早る心臓を抑えるように胸に手をやると少し落ち着いてきた。

ふーっと息を吐き出し、上体を起こすと隣に人気を感じ、びくりと肩が跳ね上がる。ゆっくりと顔を向け、その人物を確認するとそこにはニット帽を被り、たばこを咥えた男の人が不思議そうに私を見ていた。

目が合った瞬間、大丈夫か?と男の人は聞いたけど、人であることに安堵している私の耳には届かなかった。

さっき不本意に目にしてしまったテレビの映像のせいで人かどうかなんて疑ってしまった。

ーーもうっあんなもの放送しないでほしい。
あれ?そういえばこの人、初めて見る人だ…。

そんな事を考えつつ、ご近所付き合いをしっかりしている私は、目の前の見た事の無い男の人に違和感を持つ。同アパートの住人は顔見知りばかりのはずだけど…。そして今、その住人の殆どが町内会の旅行に出ている為、不在であることも知っている。

ーーどこかのお客さん?でも、私の家の先は角部屋で、この人が立っているのは私の家の玄関に差し掛かる前だ。お客さんだとしたら、この人が立っている位置からして、私の家か隣の家になる。
…うち?まさかね…。
そういえば、大家さんがうちの隣に男の人が引っ越して来たとか言ってたっけ…。まだそのお隣さんには会えていなかったし、この人がその…?

そんな考察を脳内で繰り広げながら口はいつもの調子で挨拶をしていた。

『こんばんは』

言いながら顔が真っ赤に染まってゆく。先程までの自分の行動を思い出し、ふと足元を見ると裸足だという事に気付いてしまったから。それに、きっと全部見られていただろうし…


ーーあれ?火!消したっけ!?
確認しに行かなきゃ!

ふと火を使っていたことを思い出し、火元が気になりはじめる。それより何より恥ずかしさのあまり、早くこの場から立ち去りたかった私は慌てて家に向き直り、男の人に、ではまたっと言って家に飛び込もうとする。
しかし、先程の惨事を思い出しピタリと止まる足。先程まで真っ赤になっていた顔はみるみる青ざめていく。

ーーどうしよう。まだあのCMが放送されてたら…。ひとりで家に入れない…。

「大丈夫か?」

私の不審過ぎる行動を疑問に思ったのか、男の人がついに口を開いた。正確には二度目の質問だが。

ーー!この人がいた!もうこの人に頼るしかない!

『ちょっと来てください!』

切羽詰まっていた私は、その人の問いかけにろくな返事もせずその人の腕を引っ掴み、ぐいぐい引っ張り家の中に入った。男の人は驚いた表情をした気がするけど、この際無視だ。

とても不審に思われているだろうけど、この際気にしていられない。というか、気にしている余裕なんて、今の私にはなかった。




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