特殊
□誓い
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「随分大人しく捕まってくれたんですネ♡」
伯爵の屋敷にある、普段使われていない地下室のひとつ。
その部屋に、1人の少年が伯爵によって連れてこられていた。
「っ…全然大人しくしたつもりは無かったですけどね。」
警戒心満載で伯爵を睨みつけるのは、エクソシストであるアレン・ウォーカー。
彼は、伯爵にとって大事な兄弟である14番目の宿主。そんな彼が一人である時を狙って、伯爵が己の屋敷に拉致してきたのだ。
14番目の宿主をそばに置けて嬉しいのか、幾分か伯爵の声が明るい。
そんな彼に抵抗しつつも余裕で連れてこられたアレンは、悔しさを感じながら伯爵を睨みつける。心做しかいつもより笑顔なその顔がさらに腹立つ。
アレンの心境を読んだかどうかは定かではないが、伯爵はより一層目元を嬉しげに歪ませ、アレンを繋いでいる手錠の鎖を掴んだ。
「これには我輩の術が練り込まれているものでス。あなたのイノセンスでも破壊できないものですかラ、無駄な抵抗はやめてくださいネ♡」
ただの鎖なら、アレンのイノセンスで容易く破壊できた。それなのに伯爵に先手を打たれていた事実にアレンの眉がよる。
それが愉快なのか、伯爵は軽く喉で笑って手錠の鎖から手を離した。
「この手錠はこの部屋の範囲まで伸びる仕組みになってますからネ。一応日常生活に支障はきたさないはずでス。」
地下室と言っても、別にここは牢獄ではない。殺風景ではあるが個別にお風呂もトイレもあるし、簡素なテーブルや椅子、ベッドもある。
だが、長年使われていなかったため、それらは少し埃っぽい。アレンをさらったのが急だったのもあり、掃除する暇がなかったのだ。
だからといって、敵である自分が捕虜の前で部屋を掃除する訳にも行かない。まぁ、掃除道具もあるし自分で掃除するだろう。そう結論付けた伯爵はアレンから離れ、扉にへと向かった。
「でハ、我輩はまだ仕事がありますので失礼しますネ。また明日様子を見に来まス。食事はAKUMAに持ってこさせますネ。」
アレンの返事を聞かずに部屋を出て、扉を閉じる。同時に、伯爵は皮の内側で笑みを浮かべた。
ようやく14番目を手に入れられた。込み上げてくる喜びを噛み締め、自室に向かって歩き出す。
大丈夫、今度こそ一緒にいられる。もう誰にも、邪魔なんかさせやしない。
兄弟であるノアにも黙ってアレンを拉致した伯爵は、どこか壊れた笑みを素顔に浮かべながら、足取り軽く歩き続けた……