名探偵コナン
□第13話
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降谷とホテルで会った日から数日が経った。
降谷の言っていた通り、組織の動きは見られず、私は赤井から一人での行動を許されることになった。
『(赤井さんと柚葉から解放されたと思ったら、次は期末試験。)』
私は目の前に積み重なる教科書を見て、ため息をつく。
筆記試験にレポート提出。
大学生も楽ではない。
試験日まで日数もないので、私は図書室で勉強をしていた。
「あの、前の席良いですか?」
『はい、どう……ぞ。』
私は相手の顔を見て固まる。
私の向かい側に座る男性。
その顔はあまりにも似ていた。
『(お兄ちゃん……。)』
そう、兄の景光に瓜二つのその顔。
それも、少し似ているとかではなく、全く同じだった。
兄に会えたという嬉しい気持ちが溢れる。
しかし、それはすぐに悲しみに変わる。
『(違う。お兄ちゃんは死んだ。目の前の人は違う人。お兄ちゃんじゃない。)』
兄が死んだときの記憶は、今でも鮮明に思い出される。
あの廃ビルで、血を流して倒れる兄。
何度声をかけても目を開けてくれなかった。
兄のことを思い出すと、胸が苦しくなる。
目頭が熱くなり、今にも泣いてしまいそうだった。
『(ここで泣いたりしたら、変に心配をかけちゃう。片付けて帰ろう。)』
私は急いで教科書を鞄にしまう。
椅子から立つと、向かい側の男から「あの」と声をかけられた。
しかし、私は今にも泣いてしまいそうで、それを隠すために聞こえないふりをしてその場から立ち去った。
──────────
『はぁっ、はぁっ、はぁっ。』
私は小走りで人気のない場所へと向かう。
そして、階段を昇る途中でしゃがみこんだ。
『はぁっ、はぁっ、……ふー。』
私は呼吸を落ち着かせる。
『(お兄ちゃん……。)』
いくら望んでも、兄は戻ってこない。
わかっていることなのに。
『(あの人、すごく似てた。本当は死んでなくて、生きていた、とか。)』
淡い期待を膨らませてみる。
しかし、私はその考えを振り払った。
『(違う。あの人はお兄ちゃんじゃない。お兄ちゃんは、目の前で死んだんだから。)』
胸から赤い血を流して冷たくなる兄を思い出す。
私はつらくなって、自分の腕に顔を埋めた。
兄は死んだ。
でも、もし生きていたら。
『あの人が、お兄ちゃんだったら、いいのになぁ。』
私は静かに涙をこぼした。
コツコツ
こちらに近づく足跡が聞こえる。
泣いているところを誰かに見られるも気まずく、私は急いで立ち上がって、階段を再び昇り始めた。
「待って!」
私は腕を捕まれて、声をかけた主に振り向けさせられる。
「っ!……。」
相手は、私が泣いているのを見て言葉を失う。
私は、泣きながらも相手の顔を見つめた。
『(何度見ても、お兄ちゃんにしか見えないよ。)』
私を振り向かせた相手は、先程図書室で会った兄に似た男性であった。
次々と涙が私の頬を伝う。
そんな私を見て、相手は戸惑いながらも、鞄からタオルを出して私の手に握らせる。
私は『ありがとう』と言って、そのタオルに顔を埋め、落ち着くまでそのままにしていた。
─────────
私が落ち着いた頃合いを見て、彼は声を発する。
「あの、『ごめんなさい。』
私は彼の言葉を遮って謝った。
『急に泣いたりして、ごめんなさい。』
「……君が大丈夫ならいいよ。」
男は優しい声で言うと、私にペンを見せる。
「これ、君のだろ?」
男が持っているのは、先程私が図書室で使っていたペンであった。
『これのために、私を追いかけてきてくださったんですね。』
『ありがとうございます。』と言い、男からペンを受け取って鞄にしまう。
『すみません、声をかけてもらったのに逃げるように行ってしまって。』
「あっ、やっぱり聞こえてたんだ。」
『ごめんなさい。』
「そんなに謝らなくてもいいよ。」
男は少し笑ったあと、優しく私に尋ねる。
「なんで泣いたのか聞きたいんだけど、教えてもらえる?」
『……。』
私は口をつぐんだまま俯く。
「俺、何か悪いことしたか?もしそうなら、謝りたくて。」
私は首を横に振る。
『あなたは、悪くないんです。その……、私の亡くなった兄にあなたが似ていて……。』
私はタオルを持っている手に少しを力をいれる。
「……。」
男は言葉が出てこず、なんと言って良いか考えあぐねているようだ。
『ごめんなさい。こんなこと言われても困って「つらかったな。」
男は、また泣き出してしまいそうな私の頭の上に手を置き、優しく頭を撫でる。
『ぁ……。』
初めて会う人なのに、兄に撫でてもらえているような気がして、嬉しくて、私はされるがまま身を委ねた。
「もし……。もし君が望むなら、俺のこと、君のお兄さんと思ってくれてもいいよ。」
『お兄ちゃん……。』
私は、男を見て、この人が兄だったらと想像してみる。
それはきっと、楽しい生活となり、心温まる時間になるだろう。
しかし、そこに一緒にいるのは兄ではない。
『(……嬉しいけど、それはダメ。)』
私は、無理にではあったが、笑顔を作って男に言う。
『とても嬉しいことですが、それはできません。いつまでも現実から目を背けてもいられないですし、あなたは他の誰でもない。でも、もし良いのなら、お友達になってくれませんか?』
男は優しく微笑むと、私の頭にのせていた手をどかした。
「いいよ。これからよろしくな。」
男は私の方に手を出す。
『はい。』
私は男と握手した。
思いもしなかった出会い。
果たしてこれは、偶然なのか必然なのか。