名探偵コナン

□第13話
1ページ/4ページ

降谷とホテルで会った日から数日が経った。

降谷の言っていた通り、組織の動きは見られず、私は赤井から一人での行動を許されることになった。

『(赤井さんと柚葉から解放されたと思ったら、次は期末試験。)』

私は目の前に積み重なる教科書を見て、ため息をつく。

筆記試験にレポート提出。
大学生も楽ではない。

試験日まで日数もないので、私は図書室で勉強をしていた。

「あの、前の席良いですか?」

『はい、どう……ぞ。』

私は相手の顔を見て固まる。

私の向かい側に座る男性。
その顔はあまりにも似ていた。

『(お兄ちゃん……。)』

そう、兄の景光に瓜二つのその顔。
それも、少し似ているとかではなく、全く同じだった。

兄に会えたという嬉しい気持ちが溢れる。
しかし、それはすぐに悲しみに変わる。

『(違う。お兄ちゃんは死んだ。目の前の人は違う人。お兄ちゃんじゃない。)』

兄が死んだときの記憶は、今でも鮮明に思い出される。
あの廃ビルで、血を流して倒れる兄。
何度声をかけても目を開けてくれなかった。

兄のことを思い出すと、胸が苦しくなる。
目頭が熱くなり、今にも泣いてしまいそうだった。

『(ここで泣いたりしたら、変に心配をかけちゃう。片付けて帰ろう。)』

私は急いで教科書を鞄にしまう。

椅子から立つと、向かい側の男から「あの」と声をかけられた。

しかし、私は今にも泣いてしまいそうで、それを隠すために聞こえないふりをしてその場から立ち去った。



──────────



『はぁっ、はぁっ、はぁっ。』

私は小走りで人気のない場所へと向かう。

そして、階段を昇る途中でしゃがみこんだ。

『はぁっ、はぁっ、……ふー。』

私は呼吸を落ち着かせる。

『(お兄ちゃん……。)』

いくら望んでも、兄は戻ってこない。
わかっていることなのに。

『(あの人、すごく似てた。本当は死んでなくて、生きていた、とか。)』

淡い期待を膨らませてみる。
しかし、私はその考えを振り払った。

『(違う。あの人はお兄ちゃんじゃない。お兄ちゃんは、目の前で死んだんだから。)』

胸から赤い血を流して冷たくなる兄を思い出す。

私はつらくなって、自分の腕に顔を埋めた。

兄は死んだ。
でも、もし生きていたら。

『あの人が、お兄ちゃんだったら、いいのになぁ。』

私は静かに涙をこぼした。

コツコツ

こちらに近づく足跡が聞こえる。

泣いているところを誰かに見られるも気まずく、私は急いで立ち上がって、階段を再び昇り始めた。

「待って!」

私は腕を捕まれて、声をかけた主に振り向けさせられる。

「っ!……。」

相手は、私が泣いているのを見て言葉を失う。

私は、泣きながらも相手の顔を見つめた。

『(何度見ても、お兄ちゃんにしか見えないよ。)』

私を振り向かせた相手は、先程図書室で会った兄に似た男性であった。

次々と涙が私の頬を伝う。

そんな私を見て、相手は戸惑いながらも、鞄からタオルを出して私の手に握らせる。

私は『ありがとう』と言って、そのタオルに顔を埋め、落ち着くまでそのままにしていた。



─────────



私が落ち着いた頃合いを見て、彼は声を発する。

「あの、『ごめんなさい。』

私は彼の言葉を遮って謝った。

『急に泣いたりして、ごめんなさい。』

「……君が大丈夫ならいいよ。」

男は優しい声で言うと、私にペンを見せる。

「これ、君のだろ?」

男が持っているのは、先程私が図書室で使っていたペンであった。

『これのために、私を追いかけてきてくださったんですね。』

『ありがとうございます。』と言い、男からペンを受け取って鞄にしまう。

『すみません、声をかけてもらったのに逃げるように行ってしまって。』

「あっ、やっぱり聞こえてたんだ。」

『ごめんなさい。』

「そんなに謝らなくてもいいよ。」

男は少し笑ったあと、優しく私に尋ねる。

「なんで泣いたのか聞きたいんだけど、教えてもらえる?」

『……。』

私は口をつぐんだまま俯く。

「俺、何か悪いことしたか?もしそうなら、謝りたくて。」

私は首を横に振る。

『あなたは、悪くないんです。その……、私の亡くなった兄にあなたが似ていて……。』

私はタオルを持っている手に少しを力をいれる。

「……。」

男は言葉が出てこず、なんと言って良いか考えあぐねているようだ。

『ごめんなさい。こんなこと言われても困って「つらかったな。」

男は、また泣き出してしまいそうな私の頭の上に手を置き、優しく頭を撫でる。

『ぁ……。』

初めて会う人なのに、兄に撫でてもらえているような気がして、嬉しくて、私はされるがまま身を委ねた。

「もし……。もし君が望むなら、俺のこと、君のお兄さんと思ってくれてもいいよ。」

『お兄ちゃん……。』

私は、男を見て、この人が兄だったらと想像してみる。

それはきっと、楽しい生活となり、心温まる時間になるだろう。

しかし、そこに一緒にいるのは兄ではない。

『(……嬉しいけど、それはダメ。)』

私は、無理にではあったが、笑顔を作って男に言う。

『とても嬉しいことですが、それはできません。いつまでも現実から目を背けてもいられないですし、あなたは他の誰でもない。でも、もし良いのなら、お友達になってくれませんか?』

男は優しく微笑むと、私の頭にのせていた手をどかした。

「いいよ。これからよろしくな。」

男は私の方に手を出す。

『はい。』

私は男と握手した。

思いもしなかった出会い。
果たしてこれは、偶然なのか必然なのか。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ