名探偵コナン

□第9話
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病院の一室。

私は退院するために荷物を片付けていた。

『これでよし。』

荷物をひとまとめにし、忘れ物がないか確認する。

『(それにしても、ずいぶん体がなまってるな。)』

今回の入院では熱が出てしまい、思ったよりも入院が長引いてしまった。

ほとんど横になっていたため、少し動くだけでも息切れを感じる。

コンコン

扉を叩く音が聞こえて私は入り口を見た。

「真里、迎えに来たよ。」

『零さん!』

入り口には私服の降谷がいた。

今日のために仕事を空けてくれたようで、私の退院に付き添ってくれるらしい。

降谷は私のところまで来ると、私の荷物を軽々と持ち上げる。

『あっ、自分で持ちます!』

「これくらい持たせてくれ。」

そう言って、降谷は空いた手で私の手を握る。

『ありがとうございます///』

繋がれた手が温かい。

先日、晴れて降谷と恋人同士になった。

そして、今日から一緒に住むことになっている。

私は嬉しくて顔をほころばせた。



――――――――――



降谷の家へ行く前に、私は降谷に頼んで私の住んでいたアパートに立ち寄ってもらった。

先日のこともあり、窓ガラスは割れ床に飛び散っている。

ソファーは血が飛び散り黒く汚れていた。

そんな部屋の奥まで歩いていき、私は兄の写真を手に取る。

『ただいま、お兄ちゃん。』

私は、写真に写る兄を見つめる。

『この間は、私を助けてくれてありがとね。私、戻ってくることができたよ。』

写真の中の兄は、こちらを見て微笑んでいた。

『お兄ちゃん、私に幸せになれって言ってくれたよね。私いま、幸せだよ。』

私は後ろに振り返って降谷を見る。

『好きな人が一緒に居てくれる。でも―――。』

私は少し目を伏せ、写真に目を向けた。

『お兄ちゃんが傍にいないことは、悲しいよ。』

私は写真を胸の前で抱き、降谷を見る。

『零さん、兄にはもう会えないんでしょうか?教えてください。兄がどうなったのか。』

「……。」

降谷は悲しい表情をして、私の問いには答えない。

『零さん、言っていましたよね。私の記憶は、私が思い出したくないって思っているから思い出せないって。それって、思い出したくないほど辛い過去だからですか?』

「……。」

『零さんが兄のことを何も教えてくれないのは、兄の身に何かあったからじゃないですか?兄の話を出したとき、零さんが悲しそうな顔をするのは、兄が死んで、もういないからじゃないんですか?教えてください、本当のことを。知りたいんです、真実を。』

「……。」

降谷はずっと口を閉じたままだ。

『私、知り合いに警察の人がいるので、その人に兄のことを調べてもらったんです。結果、兄のことは何もわかりませんでした。でもそれって、おかしなことですよね。警察として、何か記録が残っていてもおかしくないのに、隠されたように何も出てこなかった。それって、兄が公安の人間だからですか?』

公安という言葉に、わずかだが降谷の瞳が動く。

『私なりに考えてみたんです。兄は公安として潜入捜査をしていて、そこで死んでしまった。それなら、亡くなったことは家族には伝わることなく秘密にされる。今まで、たまにでも連絡してくれてた兄から急に連絡がこなくなるのは、そういうことだからなのかなって。』

「……。」

『私、兄のことを知らないまま生きていくのは嫌です。だから私、警察官になろうと考えています。兄と同じ仕事であれば、知る機会があるんじゃないかなと思って。兄に何があったのか探りたいんです。』

降谷は固く閉めていた口を開いた。

「真里、君は警察官にならないでほしい。」

降谷は諦めたかのように話し出す。

「真里の考えている通りだよ。ヒロは、もうこの世にはいない。アイツは公安として潜入捜査をしていて、正体を知られて死んだ。最期まで、立派に勤めを果たしたよ。」

『ッ。』

胸が苦しい。

そうだろうと思っていても、現実を告げられると、とてもつらいものだった。

どこかで、生きているかもしれないと考えている自分いた。
それが余計に私を苦しめる。

私は写真を強く抱き締め、静かに涙をこぼす。

『(お兄ちゃん、なんで死んじゃったの。)』

頭には、小さい頃、誘拐された私を助けてくれた強い兄が思い浮かぶ。

私にとってヒーローのような存在だった。

『(もう、お兄ちゃんに会えない。)』

私の名前を呼んで、大きな手で頭を撫でてくれた。

いつも優しく声をかけてくれて、元気をたくさんもらった。

『(会いたい。お兄ちゃんに会いたい。)』

私は兄の後ろをついて回り、よく遊んでもらった。

兄との思い出がたくさん出てくる。

それに伴い、次々と涙は溢れてきた。

降谷は私に近づくと、優しく包み込むように抱き締めた。

『っ……ふ……っ……』

私は静かに涙を流した。



――――――――――



降谷は私が泣き止むまで抱き締めてくれていた。

私はゆっくり降谷から離れる。

『もう、大丈夫です。』

少し目が腫れぼったい。

まだ気持ちは整理できていないが、泣いて少しは楽になった。

『零さん、私やっぱり警察官になりたいです。兄のしようとしていたことを継ぎたいと思います。』

「それは危険だ!ヒロも俺も、真里にそんなことして欲しくない!」

『でも、私はもう兄の敵に関わっていますよね。』

私は真っ直ぐ降谷を見る。

『黒い服を着た人たち。』

「!」

降谷の目が鋭くなる。

『私の命を狙ったあの長髪の男は私のことを知っていました。おそらく、私の失っている記憶に、黒い服を着た人たちの記憶もあるはずです。兄の記憶と黒い人達の記憶。この2つが別物だとは思えません。』

降谷は困った顔で私を見る。

「君は、どうしても彼等に関わるというのか?」

『はい。』

降谷は真っ直ぐ私の目を見る。

「真里、君には僕の協力者になってほしい。」

『協力者?』

「君の考えている通り、洸蕗は黒ずくめの奴等を追っていて殺された。俺は、君の兄を殺した組織を壊滅させようとしている。それには、警察の身分が邪魔になることもある。真里には、警察としてではなく、一般人としてそれに協力してほしい。」

『組織。……あの黒い服の人たち。』

「正直、真里を危険な目にあわせたくない。だが、君は自らやつらに近付くだろう。だから、僕の協力者としてヒロのしようとしていたことを手伝ってほしい。」

『(お兄ちゃんがしようとしていたこと……。)』

降谷は私の方へ手を出す。

「僕の協力者になってくれ。」

私は迷わず降谷の手をとった。
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