星空のしたで〜第2章〜(第40〜125話)

□第47話 奪還
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「大丈夫か!?」

土井先生がこちらを振り返らずに聞く。
私は涙で声が掠れそうになりながらも、「はい…!」と答えた。

「彼女は返してもらうぞ!」

土井先生の低く冷たい声が響いた。
雑渡さんは右目をにやりと細めてこちらを見た。

「やっぱり来たね…土井先生。」

雑渡さんが苦無を構える。
土井先生も私を背に庇いながら苦無を構えた。
そのまま、二人が同時に距離をつめて苦無を交わした。
鋭い金属音が鳴り響き、その合間で時折投げられる手裏剣が床や壁に突き刺さる。
深く刺さったそれが、その力強さを示していた。
二人とも、一呼吸もおくことなく流れるように素早く攻撃をしかけ、互いに最小限の動きでかわし続ける。
私はその迫力に圧倒され、廊下から部屋の中に後ずさった。
その瞬間、周りが白い煙に包まれた。

胴体に強い衝撃。
ぐんっ、と重力を感じ、次の瞬間、ひゅっと風を切る音がして逆に重力を感じなくなった。

落下、している!?

暗い視界で何が起きているか分からないまま、恐怖で身を固くすると、

「つかまって!」

土井先生!

耳元で土井先生の声がした。
手を伸ばすと、土井先生の腕が私の帯の上を抱えていた。
次の瞬間、がっと体に強い重力を感じ、草の上にごろごろと転がり落ちた。
土井先生が私の背中と頭を抱えて、私は着地の衝撃をあまり受けずにすんだ。

「大丈夫?」

「…っはい。」

よろよろと立ち上がる。
闇に目がなれてきた。
土井先生が木に引っかけていた鉤縄を強く引っ張り回収する。
これで着地の衝撃を緩衝したのか。
上を見上げる。
あんな高い窓から飛び降りたのかと身震いした。
すると、土井先生が口に指をくわえてピーッと音を出す。

「さ、行くよ。」

土井先生は私を横抱きに抱え、木に登ると城の塀を越えて外の林に出た。
地面を驚くほど静かに走っていく。
するとどこからか手裏剣が飛んできて、横の木に刺さった。
土井先生は次々と飛んでくるそれを苦無で弾き返し、自らも何かを投げた。
そのまま物凄い勢いで走り続け、やがて暫くすると古い井戸の側に来た。
汗が首を伝い落ちている。

「…ここまで来れば大丈夫。陽動作戦で敵をひきつけてくれた皆もじきここに集まるはずだ。」

土井先生が私をゆっくりと地面に降ろす。
月明かりに照らされた土井先生の真剣な顔。
そのまま、ぎゅっと強く抱き寄せられた。

「心配、させないでくれ…!」

土井先生の腕が苦しいくらいに締め付けた。

「すみません…。」

彼の背中に腕を回し、その衣をぎゅっと握った。

「無事でよかった…!」

優しい声。
土井先生の温かい胸。
私は安心して涙がこぼれそうになった。

「……ありがとうございます。」

大きな手が頬に触れた。

「…何だか、そんな格好してると本当のお姫様みたいだな。」

土井先生の親指が私の目尻を拭う。
その手にそっと手を重ねた。

「助けに来てくれると…信じてました。」

「…当たり前だ。たまみの為なら地の果てだろうと助けにいく。」

「土井先生…!」

私は土井先生の胸に抱きついた。

「笛の音が聞こえて場所が分かったよ。渡しておいてよかった。」

その言葉にハッと思い出した。

「あ、それが…すぐ雑渡さんに取られてしまって。」

「そうか、じゃあまた作るよ。今度こそ、使わないにこしたことはないけど。…ん?」

私は、無意識に土井先生の腕をつかんだ。

「…どうした?」

土井先生が心配そうに顔を覗きこんだ。

「土井先生…さっき、」

「うん?」

「…あの巻物が…私がこの世界に来たときに見た巻物が、あったんです…!」

「!」

「城主の黄昏甚兵衛は、巻物と私を手に入れたら城が栄えるという夢のお告げがあって、私を妻にしようとしたらしいんです…。」

土井先生の表情が曇った。

「そんなわけあるはずないのに…!でも、あの巻物は本物でした…。私、私…!」

土井先生が私の頭を抱き寄せた。

「きみをあんなやつに渡すものか…。」

「土井先生…!」

「そんなことは、私が絶対にさせない…!」

力強い言葉に、私の心が凪いだ。
それでも、まだ恐怖は拭いきれなくて、私は土井先生にしがみついた。

「…もし…もし、その巻物のせいで…何かのはずみで…元の世界に戻ってしまったらどうしよう…」

「……たまみ…」

土井先生が私の震える肩をそっと抱いた。

「…帰さない。どこまででも迎えに行くよ…。」

二人とも、そんなことが出来るのかなんて分からなかった。
それでも、私は土井先生のその言葉を信じて顔をあげた。

「約束…してくださいね。」

「ああ、約束だ。」

土井先生が優しい目で微笑んでくれたとき、少し離れたところから声が聞こえた。

「たまみさん!」

山田先生と六年生のみんながこちらに向かって走ってくる。

「無事か?」

「はい!山田先生ありがとうございます…!みんなも、助けに来てくれてありがとう…!」

怪我をしてる人もいないようで、私は心から安心した。

「さぁ…帰ろう。」

土井先生の優しい笑顔に頷いて、私は皆とともに学園に向かった。
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