星空のしたで〜第2章〜(第40〜125話)

□第46話 黄昏時
2ページ/3ページ

私は山のなかを荷物のように抱えられて走った。
やがて小さなお城が見えて、そのなかの一室に通された。

立派な和室だった。
ふと、床の間を見ると見覚えのあるものが目に入った。
掛け軸の前、台の上に置かれているそれは…

「な…なんでここに…」

それは、私がこの世界に来たときに目にした巻物と同じ巻物だった。
珍しい赤紫色の紙に、金色の軸。
巻かれている状態で中は見えないけれど、見間違えることのないデザイン。

どくん

鼓動が早まる。

手を伸ばしかけて止めた。

触れては、いけない。

そんな気がした。
浅くなる呼吸を整え、じっと巻物を見つめる。
何も起きる気配はなく、部屋はただ静かだった。

何故ここにあるのだろう。
誰かが私と同じように違う世界からやってきたとか?
それとも、見た目が同じだけでまた違う力を持つ巻物であるとか?
…それとも…。

ごくりと唾をのむ。

これを使えば、私は元の世界に戻れるのだろうか………。

手が、震えた。

元の世界に戻れる…?
私は、戻りたいのか…?

落ち着こうと大きく息を吐く。
いずれにしても、このように飾られている以上、普通の巻物でないことは確かだった。

「それ、気になるの?」

「っ!!!」

背後から突然話しかけられ、びっくりしすぎて声がでなかった。
タソガレドキ忍軍組頭、雑渡昆奈門…!
私は警戒して後ずさろうとしたが、慣れない着物の裾を踏んで転びかけた。

「わ!」

倒れかけた背中を、がしっと支えられた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。別に傷つけようとは思っていない。」

間近に見たその目は何を考えているのか分からなかったけれど、その声音は優しいものだった。
倒れかけていた体勢をそっと戻してくれる。

「あ、ありがとうございます…。」

お礼を言うと、彼は私の顔をじーっと見た。

「きみ、やっぱり忍術学園で土井先生と一緒にいた子だね?名前は確か…たまみちゃん?」

素直に答えていいのか迷ったけれど、隠し通すことも難しいと思い頷いた。

「化粧と着物で随分雰囲気が違うからすぐに分からなかったよ。あ、私は雑渡昆奈門。何か困ったことがあれば言ってくれたらいい。」

「…では、忍術学園に帰してほしいのですが…。」

「それはできないなぁ。殿がきみのことをいたく気に入ってしまってね。」

「殿?」

「タソガレドキ城の城主、黄昏甚兵衛様だ。あとで案内しよう。」

「あの…気に入るって、お手伝いさんに雇おうとかそういうことですか?」

組頭さん…雑渡さんは、首を傾げて私をじっと見た。
何かおかしなことを言っただろうか。

「まぁ、それは殿から話があるだろう。…しかし、よりによって土井先生のお気に入りか。…面倒なことになったな。」

「組頭、殿がお呼びです。」

スッと襖が開いて見知った人物が入ってきた。

「諸泉さん!」

「?………たまみさん…!?」

知った人を見つけてひどく安心した。
諸泉さんは一瞬私が分からなかったようで、驚いた顔をしたあと、すぐに複雑な表情をした。

「なぜ…きみがここに…。」

「無理矢理連れてこられたんです…」

言外に、逃がしてほしいと願いを込めて諸泉さんを見つめたが、彼は目をそらして苦々しく俯いた。

「さぁ、殿のところへ行こうか。」

雑渡さんに促される。
気は進まないが、ここにいても仕方ないので、私は重い着物を引きずりながら部屋を出た。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ