星空のしたで〜第2章〜(第40〜125話)
□第42話 深夜の放課後
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「土井先生、お疲れさまでした。」
たまみさんの声が暗い教室に響いた。
「お疲れさま。たまみさんも眠たかったでしょう。」
「…いいえ、土井先生の声に聞き入ってました。」
急にそんなことを言うものだから、私は驚いて頭をかいた。
「…なんだか、土井先生とこんな風に話すの久しぶりな気がします。」
たまみさんの声が甘えたような色を帯びた。
私は周りに人の気配がないことを確認して、窓の外から見えない位置に身をずらした。
「…私も、ずっときみと話したかった…。」
そっと抱き寄せると、たまみさんは悲しげに私の目を見つめた。
「…ほんとですか?…土井先生、いつもと全く変わらないし、こんな風に…寂しいって思ってるのは、私だけなのかなって…。」
彼女は俯いて私の衣を握った。
「…こんなこと言ったら、土井先生に鬱陶しいと思われるかなって…我慢してたんですけど…ごめんなさい…。」
「たまみさん…」
私は彼女を強く抱きしめた。
「鬱陶しいなんて思うはずがない…!私だって、ずっとたまみさんとこうしたいと思ってたんだから…。」
「土井先生…!」
たまみさんの目から涙がこぼれそうになっていた。
私はそのまぶたにそっと唇を押しあてた。
「時間を作ってあげられなくてごめん…。もっと頑張るよ…。」
たまみさんは頷いて私の胸に顔をうずめた。
暫くそうして抱きしめていると、
「土井先生…好き…。」
彼女が甘えた声で言った。
「…私も、たまみさんが好きだ…。」
私は彼女の唇に優しく自分の唇を重ねた。
やがてゆっくり離れると、たまみさんが私の襟元を少し引いた。
「…もっと…。」
…そんな声で言われたら。
私は何度も角度を変えて彼女の唇をついばんだ。
柔らかい唇を舌でゆっくりとなぞる。
たまみさんの唇が薄く開き、私はその隙間から舌を侵入させて深く口づけた。
「んっ…!」
彼女の舌を絡めとり、吸い付く。
柔らかいその感触に鼓動が早くなる。
彼女は少し身を引こうと抵抗したが、私は後頭部に手をあてて更に深く口づけた。
「んぅっ……ふっ…うぅっ…」
彼女の苦しげな可愛い声が闇に響く。
彼女の腕が私の背中に回され、しがみつくようにきつく抱きしめられた。
彼女の甘く苦しげな声。
時折漏れる吐息。
柔らかい舌と唇の感触。
自分の息が荒くなっていくのを感じた。
…だめだ。
こんなところで、これ以上はだめだとは分かっているが…。
不意に部屋が暗くなった。
月が雲に隠れ、部屋を照らしていた月明かりがなくなったのだ。
私は思わず、いつも生徒が使っている机の上にたまみさんをゆっくり押し倒した。
「ど、どい、せんせっ…!」
「…たまみ…」
耳元で名前を呼ぶと、それだけで彼女はぴくりと動いた。
…可愛すぎる。
もっとその反応を見たくて唇を近づけた。
そのとき。
月明かりが再び部屋を照らし、校庭から一年は組の歓声が聞こえた。
…どうしたんだ?
気になって動きを止めると、たまみさんもその歓声が気になったようで目があった。
「………」
「………」
暫く見つめあって、同時に苦笑した。
「何があったんでしょうね?」
「見てみますか。」
私はたまみさんの腕を引いて起こし、二人で窓から外を見た。
校庭では、手裏剣の的を囲んで何やら一年は組が盛り上がっている。
的の真ん中には手裏剣が幾つも刺さっていた。
「まさか…あいつら普段は手裏剣投げると味方に飛ぶのに、月の消えた真っ暗闇のなかでなら的に当たるのか!?」
「それってすごいような残念なような…」
私達は苦笑して、暫く窓から生徒達の様子を眺めていた。