星空のしたで〜第1章〜(第1〜39話)

□第9話 海と波と貝
1ページ/3ページ

海に行きたい。

確かに彼女はいつだったか言っていたが…。



久しぶりには組の補習がない休日の朝。
半助と伝蔵は自室で書類整理をしていた。

「山田先生、土井先生、おはようございます!」

突然障子があけられ、元気な声とともに乱太郎、きり丸、しんべえが顔を出した。

「今日は補習はないぞ、どうしたんだ?」
「外出許可をもらいに来ました!」
「どこへ行くんだ?」
「潮干狩りです!」

あひゃあひゃ、と笑うきり丸の目は小銭になっていた。
半助は溜め息をついて3人を見た。

「おまえら、この前沖で釣りをしながら眠って舟が流されたらしいじゃないか。」
「えへへ、よくご存じで。」
「第三協栄丸さんから聞いた。」
「今回は潮干狩りだし、たまみさんも一緒だから大丈夫ですよ!」
「たまみさんも?」

よく見ると、渡された外出届は四人分であった。

「食堂で潮干狩りの話をしてたら、たまみさんも行きたいって言うから誘ったんです。」

半助と伝蔵は目を見合わせた。
たまみは何事も一生懸命ではあるが、少しおっちょこちょいというか、天然なところもあるのがわかってきた。
また乱太郎達と遠出して、何も事件が起きないわけがない…。
二人は嫌な予感しかしなかった。

「土井先生、あんた最近疲れがたまってるって言ってたでしょう。」
「はい?」
「一緒に海でも見て、気分転換してきたらどうです?書類整理はやっとくから。」

伝蔵はニヤリと半助を見やった。
矢羽音で「たまみくんもその方が喜ぶだろう」と言う。
半助も「山田先生…!」と反論しかけたが、すぐに溜め息をついて諦めた。

「…わかりました、どうせここにいても色々心配で仕事が手につかなくなりそうだし私も行ってきます…。」
「やったぁ!これで人手が五人になった!」

きり丸は目を小銭にしたまま上機嫌でくるくる回った。
乱太郎としんべえも笑いながら、たまみに伝えてくると言い隣の部屋に行く。

「まったく、せっかく久しぶりの休日なのに結局こうなるんだから…。」

そんな文句を言う半助の口許が嬉しそうに笑っていることを、伝蔵は見逃さなかった。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ