星空のしたで〜第1章〜(第1〜39話)

□第8話 和気あいあい
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帰り道。

いつもより少し歩を緩めて歩いた。
隣を歩くたまみさんは、口を弧の字に描いてニコニコしていた。
前回の町は怖い思いをしただろうけど、今回は楽しんで貰えたようでよかった。

「少し、寄り道して帰りましょうか。」

このまま帰るのが惜しい。
そんな気持ちに、あぁ、自分のなかで思ったより彼女は大きな存在になっていたのだなと気づく。

近くの小川に立ち寄ると、水面が太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。

「あ、魚がいますね!…あ、あそこカニがいますよ!?」

たまみさんは無邪気に子どものように川のそばまで行って水の中を見ていた。

「この石、ひっくり返したら何か居そう…」

意外と好奇心旺盛なんだな、と思ったとき。
彼女がひょいと覗きこもうとして、足元の石がぐらついた。

「わっ!」

「っ!」

咄嗟に彼女の腕を掴んで抱き寄せて、川に落ちるのを防いだ。

「す、すみません…!」

「………」

離せなかった。

「…あ、あの…?」

「………」

小さな体はすっぽりと私の腕の中に収まっていて、思わずぎゅっと抱きしめてしまった。

「ど、土井先生…!?」

「……名前で、呼んでくれますか?」

「!」

たまみさんは、私の胸に顔を寄せながら囁いた。

「…半助さん」

「………たまみ…」

私は彼女の頬に手を添えてその瞳をじっと見据えた。
二人の顔がゆっくりと近づく。
彼女の瞳が閉じられた。

そのとき。

「しほーろっぽーはっぽーしゅーりけーん♪」

こ、この声は…!

近づいてくる乱太郎達の歌声が聞こえて、私達はぱっと身を離した。
たまみさんと目があって、はは、と照れ笑いをしながら、仕方なく私は「帰りますか」と言って荷物を持ったのだった。
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