星空のしたで〜第1章〜(第1〜39話)

□第6話 花売り
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たまみは悩んでいた。
生活に最低限必要なものは学園から借りているとはいえ、小物など他に必要なものを買うお金がない。
仕事はあるが、給料日まではまだ日がある。
前借りするわけにもいかない。
なぜなら、ある日突然元の世界に帰る可能性もあるからだ。
巻物には命尽きるとき元の世界に帰ると記されていたが真偽は分からない。
さてどうしたものか…。

昼食時、乱太郎達と食事をしていたたまみは、思いきってきり丸に相談してみた。

「きり丸くん、いいアルバイト知ってる?」

「え、いきなりどうしたんすか?」

「ちょっとお金が入り用で。休みの日にちょっとだけできるようなアルバイトってないかなぁ。」

「そうっすねぇ…」

きり丸はたまみをジーっと見て考えた。

「…じゃあ、花売りとかどうです?たまみさんならきっとたくさん売れると思うし。」

「お花を売るの?」

「はい、ちょうど今の時期色々花が咲き始めるから、それをとって町で売ればお金になります。」

「へぇ、何だか面白そうね。」

たまみがそう言うと、乱太郎としんべえものってきた。

「あ、じゃあ私も一緒に行こうかな〜。ついでに薬草がとれたら嬉しいし。」

「僕も行く行く〜!」

こうして、次の休みに四人は出かけることになった。


次の休日、補習が終わるとたまみは半助に外出する旨を伝えた。

「えっ、どこに行くんですか?」

「ちょっと買うものがあってお金がいるので、きり丸くんにいいアルバイトがないか聞いたんです。それで、町で花を売ろうって話になって。」

「言ってくれたらお金なら私が用立てたのに…」

「ありがとうございます…でも、私、もしかしたらある日突然パッとここから消えてしまうかもしれないし…お返しできなくなったら申し訳ないから…」

「たまみさん…」

半助は複雑な顔をした。

「心配しなくても、きり丸くんと乱太郎くんとしんべえくんも一緒に来てくれるから大丈夫ですよ!」

たまみは笑顔を作ってみせたが、半助はますます心配そうな顔になった。
何か言いたげな様子だったが、「気をつけてくださいね」といって外出届を受け取った。



数刻後、半助は筆を持ったままじっと固まっていた。

やはり、止めるべきだったか。
学園の外に出るのは初めてだし、あの三人と出かけて何も起こらない方が珍しい。
私もついていけばよかったか…いやしかし、仕事でもずっと一緒にいるから、もしかしたらそんなところまででしゃばったら鬱陶しいと思われるかもしれない。
そもそも、私は彼女の保護者ではないのだから…いや、学園長にも彼女のことを頼むと言われているし、そうそう、だから私がこうして気にするのも当然な訳であって…。
それにしても、花を売るって大丈夫なのか?
きり丸がついてるなら問題ないとは思うが、変な男が寄ってきたら…。

そして、先程の言葉が甦る。

『ある日突然パッとここから消えてしまうかもしれないし…』

不思議な出会い方をしたのに、ここに居ることがもう普通であることのようになりかけていた。
明日も彼女がここに居るとは限らないのに。
あの巻物に記されていたことが事実かどうかなど分からないのに…。
もし帰る方法があるならば、一緒に探してやるべきだ。
元の世界に帰る方が、彼女のためだろう。
…しかし、それをしたくない自分がいる。

考えがまとまらず、何度目かの大きなため息をついた。

「半助、どうした?」

突如、山田先生に声をかけられ肩が跳ねた。

「や、山田先生!い、いつからここに!?」

「大分前からいるが…珍しいな、大丈夫か?」

半助が人の気配に気づかないなど滅多にないことだった。

「いえ、その…はは、大丈夫です。」

曖昧に答えたものの、山田先生の視線の先には半助の筆から墨がポタポタと落ちて水溜まりのようになっている紙があった。

「…さっき、たまみくんが焦った様子で化粧の仕方が分からないというから教えてやったんだが」

「化粧?」

「あぁ、アルバイトに行くからと言ってたな。まぁ女性には色々入り用なものもあるし。」

伝蔵は分かる分かるといった様子でうんうんと頷いた。

山田先生、あなたは男性でしょう…。

半助は心のなかでつっこんだ。

「乱太郎きり丸しんべえと出かけると話していたが…三人の担任として、心配だなぁ。担任として。」

三人の担任として…

半助はハッとして立ち上がった。

「そうですね、山田先生。ちょっと、様子を見てきます。」

「ん、気をつけてな。」

勢いよく出ていく半助の背を見て、伝蔵は「世話のかかる…」とひとりごちた。
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