星空のしたで〜第1章〜(第1〜39話)

□第5話 白布
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今日はすがすがしいいいお天気だった。

まだ文字はよく分からないところもあるけれど、私は土井先生の作ったテスト用紙やプリントを写して人数分用意したり、授業中に眠ったり他の事をしようとしてる子を注意したり、少しでも土井先生の負担が軽くなるように努めた。

「たまみさんのおかげで随分楽になりましたよ!」

職員室で隣にいる土井先生がお茶を飲みながら笑顔でそう言ってくれた。

「ほんとですか?でも私、筆でうまく文字が書けなくて…土井先生はサラサラと綺麗に書くのに、難しいです…。」

「大丈夫、団蔵より全然上手に書けてますから。」

「団蔵くんって、土井先生しか文字読めないじゃないですかっ…!私そこまででしたか…?」

「はは、冗談ですよ。まだ慣れてないだけですから、ゆっくり練習していきましょう。」

こんな些細なやりとりが嬉しかった。

「あ、これで全部書き終わりました。次は何をしますか?」

「うーん、そうですね。とりあえず作業は終わったので…。よかったら休憩してきてもらっても構いませんよ。」

私は横で文字の練習でもしようかと思ったけれど、ふと窓の外を見て手を叩いた。

「そうだ、洗濯しましょうか。」

「え?」

「いいお天気だし、土井先生も山田先生も洗濯する時間なさそうだから、代わりに洗っておきますよ!」

「山田先生は家に持って帰って奥さんが洗濯してるから大丈夫だと思いますよ。」

「そうなんですか。じゃあ土井先生の分洗っておきましょうか。私のも洗いたいのでついでです。」

「それくらいは自分でできるので大丈夫ですよ…!」

土井先生は苦笑しながら遠慮したが、ふと思い出したように尋ねた。

「あれ、洗濯の仕方わかります?」

「…あ、わかりません…。」

結局、土井先生に洗濯方法を教えてもらうことになってしまい、手伝うどころか手をとめてしまった。

「土井先生、お洗濯手慣れてますね。」

「いつもきり丸のアルバイトでやらされてますから…。」

「きり丸くんのアルバイトを?」

「あぁ…、きり丸は戦で家族を亡くして私と一緒に住んでるんですよ。」

土井先生は洗濯する手を止めず、俯いたまま話した。その表情は分からない。

「休みの日に一人ではさばけない量のアルバイトを引き受けてくるから私も手伝わされるんです。」

「そう、なんですか…。きり丸くん、全然そんな風に見えませんでした。…強いですね…。」

孤独に不安を感じた自分と重ね合わせた。
けれど、記憶のない私よりも、失った家族との思い出がある方がもっと辛いのではなかろうか。
10歳という幼い歳で一人になって、あんな風にたくましく友達と笑って過ごせるものだろうか。

「…きり丸には、今まで通り普通に接してやってくださいね。」

土井先生の声は優しかった。
あぁ、そうか。
きっと、土井先生がきり丸くんの心の支えになっているのだろう。
私が泣いた夜に土井先生が頭を撫でてくれたように、きっときり丸くんの孤独も土井先生の存在が癒していたのだろう。
…私なんかが気持ちを推し量るのもおこがましい気がしたけれど、そんなことを考えて私は口をつぐんだ。
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