星空のしたで〜第1章〜(第1〜39話)

□第3話 月
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夜の学園はとても静かだった。
布団に入ると部屋がやけに広く感じられる。

記憶もない。
家族も友達も知り合いもいない。
お金も持ち物も、何もない。

一人でじっとしていると、ポツンと暗い海のなかにいるような気持ちになった。
なぜ、こんなことになったのだろう…。

手のひらを上にかざしてみた。

…私は、ここに存在している。
これは夢ではない。
私は、いまここに、生きている…。

私が居てたという異なる世界とは、どこなのだろう。
私はどこで何をしていたのだろう…。

色々な疑問が沸いてくるけれど、いくら考えても答えなど分からなかった。


『これからよろしくお願いしますね、たまみさん。』

ふと思い浮かんだのは、今日ずっと付き添ってくれていた土井先生の優しい笑顔。

さっきおやすみなさいと挨拶をしたばかりなのに…、なぜかもうまた会いたくなった。

「……」

じっと壁を見つめてみた。
この向こうに、土井先生と山田先生が寝起きしているという。

「……………」

両手で顔を覆い、大きく息を吐いた。

…自分で思うよりも、心細くなっているのかもしれない。

どうしても寝付けず廊下に出て月を見上げてみた。
夜風はまだ寒く、膝を抱えて座りこむ。

「………………」

丸い月が、涙でにじんでいった。
唇をぎゅっと噛んで涙をこらえる。
……と、そのとき。

ぱさり

突然、肩と背中に柔らかく温かい感触がした。
見ると、それは大きな半纏だった。

「…風邪、ひきますよ。」

優しい声。

振り返ると、そこには土井先生が立っていた。

「ど、い…先せ……」

瞬きをした瞬間、涙がこぼれ落ちた。
土井先生は私の横に静かに座った。

「…大丈夫」

優しく微笑んで、私の頭をぽんぽんと撫でる大きな手。

「…今は何も心配しなくていい。」

「…っ…」

その優しい声音に、大きな温かい手の感触に、涙がまたぽろぽろとこぼれる。
私は俯いて半纏を握りしめ、声を殺して泣いた。

「大丈夫」

土井先生はそう言いながら、頭を撫で続けてくれた。



やがて、ひとしきり泣くと幾分気持ちも落ち着いてきた。

「…あの…すみません…私…」

「気にしないでください。突然知らないところに連れてこられて、不安にならない訳がない。」

その声が、頭を撫でる手の温かさが、とても胸に染みた。

「辛くなったら、いつでも呼んでください。私は、ここに居ますから。」

土井先生は優しく微笑んでくれた。
その言葉に、私は今度こそ眠れるような気がした。
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