星空のしたで〜第1章〜(第1〜39話)

□第3話 月
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「ここが一年は組の教室です。」

土井先生が学園の中を順に案内してくれた。
学年や組、学園の規則等々についても教えてくれたけれど、今日は新学期の前日で生徒の姿は見かけなかった。

「こちらが食堂で、皆ここに集まって食事を食べます。」

「そうなんですか…いいにおいがしますね。」

カウンターの奥を見ると厨房に女性が立っていた。
挨拶をすべきかと思ったとき、土井先生がスッと前に出て「食堂のおばちゃん。」と声をかけた。
すると女性がこちらを振り返り驚いた顔をする。

「あら、土井先生。…そちらの方は?」

食堂のおばちゃんと呼ばれた女性が不思議そうにこちらを見たので、私はぺこりと頭を下げた。

「あ、あの、たまみと申します。今日からこちらでお世話になることになりまして…よろしくお願いします!」

「たまみさんは学園長の親戚なんですけど、戦に巻き込まれて記憶が色々欠けてしまったみたいで。リハビリも兼ねてここで働くことになったんです。」

土井先生が横から付け加えてくれた。
何だか本当の事みたいに聞こえるからすごい。

「そう…それは大変だったわね。分からないこととかあれば気軽に言ってちょうだいね。」

「ありがとうございます!」

食堂のおばちゃんは気さくな雰囲気でニッコリと微笑んでくれた。
この学校の人達は、温かい人ばかりで涙が出そうになる。

「ちょうどご飯作ったところだから、食べていく?」

聞かれて初めて、そういえばお腹がすいていることに気がついた。
こんな時でもお腹はすくんだなと驚く反面、自分がいまここに生きているのだとある意味実感した。

でも、学園の案内をしてくれている途中だしいいのかな…。

ちらりと土井先生を伺い見ると、彼はにこりと微笑み頷いた。

「じゃあ続きは食べてからにしましょう。」

「はい…!」

空腹を察してくれたのが嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちになった。
すると、食堂のおばちゃんが厨房の奥に戻ったのを見計らい、土井先生が声をおとして小声で聞いてきた。

「ところで、苦手な食べ物はありますか?」

「苦手なもの?」

「はい。食堂のおばちゃんはお残しを許さないので…。」

「うーん……何かあると思うのですが…思い出せない……」

「そうですか…。もしあれば言ってください。代わりに私がこっそり食べますから。」

「ありがとうございます。…土井先生は何かお嫌いなんですか?」

「わ…私は…その、練り物がちょっと…」

眉をハの字にして苦笑しながら頭をかく土井先生。
真面目で優しい先生だと思ったけれど、そんな可愛らしい一面もあるのだなとつい微笑んでしまった。

「じゃあ、もし練り物があれば私が食べて差し上げますね。」

「あはは…ありがとうございます。」

「何をこそこそ話しているの?」

お膳を手にした食堂のおばちゃんがこちらへ歩いてきた。
土井先生が慌ててぶんぶんと手のひらを振る。

「いいいいえ!何でもありません!」

「そう?はい、おまちどおさま!」

食堂のおばちゃんがにこにことお膳を出してくれた。

「ありがとうございます。美味しそう…!」

「ゆっくり食べていってね。」

ぺこりと頭を下げ、促されるまま土井先生の対面の席に座った。

「「いただきます」」

この世界で初めての食事。
ご飯と煮物とお味噌汁…薄味なのにとっても美味しくて、あっという間に食べてしまった。
ふと視線に気づいて顔をあげると、土井先生がニコニコとこちらを見ていた。

「たまみさんって、嬉しそうに食べますね。」

「えっ、そうですか?」

「いい食べっぷりで、見ていて気持ちいいですよ。」

それって、褒められているのか笑われているというか子ども扱いされているのか…。
とりあえず笑ってごまかしてみると、食堂のおばちゃんがお茶を持ってきてくれた。

「土井先生、嬉しそうね。」

「えっ!?いや、別に私は…!」

「最初たまみちゃん見たとき、土井先生がイイ人を連れてきたのかと思ったわ。」

「そ、そんなわけないでしょうっ!」

土井先生は真っ赤になって否定した。
当たり前なんだけど、そんなに必死に否定されるとなぜか傷つく…。

「土井先生って、そんなに格好いいのに…そういう方はいないんですか?」

一瞬、土井先生の動きが止まった。
食堂のおばちゃんが腕を組んでうんうんと頷く。

「そうなのよぉ。忍者としての腕前も一流なのに奥手なんだから…!」

「そうなんですかぁ、勿体ない…」

オホン!と土井先生が咳払いをした。

しまった、うっかり思ったままを口にしてしまった。
失礼だっただろうか。

「さ、続き行きますよ!」

ガタンと立ち上がった土井先生はすぐに後ろを向いて表情が見えなかった。

気を悪くさせてしまった…?

けれど、土井先生の耳は真っ赤になっていて。
食堂のおばちゃんも笑っていた。

…もしかして、照れてる?

思わず可愛いと思ってしまったが、言葉にはせず私はおばちゃんにお辞儀をして食堂を出た。
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