夢想乱舞
□▼ 妖ノ花 −アヤカシノハナ−
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あっという間の出来事に、
桜月は暫くぽかんとしていたが、
ふと我に返り、乱れた衣服を直しながら
独り言を呟く。
「一番古株の清光の力が必要な事って、
何なんだろう?気になるな……」
(湯浴みに行くついでに、
ちょっと様子見てこようかな……)
そう、心の中で思い立った桜月は、
湯浴みの準備をしてから部屋を後にした。
(そういえば……
お風呂場ってどこだっけ……?)
桜月は根本的な問題に今更気付き、
廊下を歩きながらきょろきょろと
周囲を見渡してみる。
桜月は、所謂
方向音痴というものだった。
暫く廊下を歩いていると、
縁側の向こうに
大きな見慣れぬ蔵がある事に気付き、
その蔵の中に丁度、
加州が入って行くのが見えた。
(あっ、清光……!)
加州を追って、蔵の前まで来た桜月だったが、
そこで彼女は衝撃の光景を目撃してしまう。
「いっ、いやぁぁ!!
やだ、死にたくない……っ!!」
「黙れよ、クズ。五月蝿い」
──ザシュッ!
恐怖に戦慄き、足が縺れて
床に尻餅を着いた女性が、
必死に後退りしながら命乞いする。
だが、加州は苛立ちを滲ませた無表情で
刀を抜き、振り上げ……
勢いよく、首を撥ねたのだ。
絶命した体がゆっくりと床に倒れ、
ごろりと重たい音を立てて
切断された頭部が床に落ちる。
その頭部、光を失った虚ろな瞳と
桜月の目線が合ってしまい、
桜月が目を逸らせずに固まっていると……
「ああ……見ちゃったんだね、
いけない子だ」
そう、優しくも冷たい声音が
頭上から降り、同時にそっと両目を
背後から片手で塞がれ、体も優しく
片腕で抱き締められた。
「さあ、部屋に戻ろうか。
君の記憶から、あの汚い光景を
消し去らないと……ね?」
『は、い……』
(ああ……頭がぼーっとする……
この声は、誰だろう?
意識が……薄れてく……)
そうして完全に意識が途切れ、
眠りに落ちた桜月の体を
抱き留め抱えたのは、
妖しい笑みを浮かべるにっかり青江だった。