夢想乱舞


□▼ 籠ノ鳥姫
2ページ/6ページ





桜月が神隠しに遭った翌朝。


本丸の最上階、天守閣に置かれた
審神者の部屋で、桜月が
目を覚まし、身嗜みを整えていると、
階段を駆け上って来る元気な足音がして、
スパンと勢い良く、襖が開け放たれた。



「あーるじさんっ!あーそーぼ!」

「大将、おはよっ!」


そう言って、懐に飛び込む形で
抱き着いて来たのは、
極短刀の乱藤四郎と、
乱の兄弟であり、粟田口の秘蔵っ子・
極短刀の信濃藤四郎。



『わっ……!おはよう、乱ちゃん、
信濃くん。朝から元気だね』


そう言いながら二振りの頭を
撫でてやれば、二振りはより一層、
桜月に強く抱き着いて甘える。



「えへへっ!だって、
今日の近侍は俺だから!」


そう、至極嬉しそうに話す信濃を
羨ましそうにジト目で見遣る乱が、
負けじと桜月を
後ろから抱き締める力を強めた。



「ボクだって、あるじさんと
一秒でも長く一緒にいたいもん!」

『ふふ、嬉しいよ。ありがとう!』




───この会話だけを聞いたら、
何とも微笑ましい光景に思えるが、
この本丸は、普通ではない。
狂っているのだ。


この本丸の男士達は、
画面の向こう側の世界……
所謂、現代世界でのプレイヤー、
自分達の意思で選んだ
人間の少女のみを審神者と認め、
政府から送られて来る審神者は
皆殺しにするか、良くて
離れの蔵に監禁放置するという、
所謂、ブラック本丸だった。


そんなブラック本丸に
神隠しされ連れて来られた、
現代の女子高生で巫女の桜月。

彼女は勿論、男士達の本性、
裏の顔を知らない。

だが、男士達が隠している
真実を知った所で、
この本丸を、男士達を捨てて、
逃げる事はないだろう。


何故なら、彼女もまた、
狂っているから。

否、狂わされてしまったから……。



この本丸に居る男士達だけの
審神者となった桜月は、
歪められた真実を知る術なく、
今日もゆっくりと、心を
甘い毒に侵蝕されていく。


そう……
『洗脳』という名の甘い毒に……






「……?信濃くん?」

「……!ああ、ごめん。
大将が可愛いから、見蕩れてた」



漸く、大将を手に入れた。
俺達だけのモノにした。

昨日の出来事を振り返って
嬉しさの余韻に浸ってたら、
軽く夢の世界にイっちゃってた……
危ない、危ない。

大将が、おっとりな天然さんで
良かったよ。誤魔化したの、
気付かれてないみたい。



俺達、この本丸に居る刀剣男士は
全員、大将であるこの人……
玖城桜月が、大好き。

所謂、 一目惚れってやつで。
俺達の大将は、この人しか有り得ない。
そう決めたから、攫って来た。


すっごい悔しいけど……
俺達の中で一番、神力も霊力も高い
三日月さんに契りをしてもらって、
それからこの後、薬研兄さんが
特製の秘薬で、現代での
記憶を抹消させるんだ。


そうして手に入れた、
俺達だけの、可愛い可愛い大将。


ねえ、大将?
大将の可愛さに見蕩れてたのは
本当だよ。だって、本当に
大将は可愛いから。

誰にも渡さない。

俺達以外の奴になんか、
余所見させないよ。


そんな想いを込めて、
優しく、でも熱くて深い
口付けをしてあげれば……



「ん……っ、信濃く……」



ふふっ、可愛い大将が
凄く可愛い声で、名前を
呼んでくれるの。最高に幸せ。


ねえ、大将……大好き。
アイシテル。


その綺麗な髪も、愛らしい目も、
身体に流れる血も、骨までも……

全部、全部、俺達が
愛し尽くしてあげるから。



「大将……愛してる」

「うん、私も、私も愛してるよ」




桜月はこうして、
何度も何度も繰り返し、重ね重ね
洗脳を受けていく中で、
現代に居た頃の記憶が薄れていくのだった。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ