ぼくがぼくになった日
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「嶺二くん、いる?」
失踪事件から一週間、多分なまえちゃんは毎日来てくれていたと思う。
鍵を開けて招き入れると、嶺二くんまでいなくなっちゃったのかなってずっと不安だった。と胸をなでおろした。
「いたよ。本当は毎日部屋にいた」
「そう。嶺二くんが元気ならそれでいいんだ」
元気なんかじゃない。
そんなことわかっているだろ!
「……嶺二くん…好き」
ぼくのすさんだ心に自然に入ってくるかのように、なまえちゃんはぼくを後ろから、柔らかく、優しく、暖かく。そっと抱きしめてくれた。
「嶺二くんまで失いたくない。どこにも行かないで、このまま抱きしめていさせて」
「ぼくは大切な親友を失って気づいたんだ。幸せな日々とともに大きなリスクを伴っていたこと。けーちゃんもひびきんもぼくの前からいなくなった。いつか、なまえちゃんだって」
「いなくなったりしない。約束」
「約束だよって、愛音と指切りげんまんをしたんだ。ぼくはもう大切な誰かは作りたくない。失ったときの辛さや痛みを知ったから。だからこそその誰かを傷つけることも、それによって自分が傷つくことも怖いんだ。怖くて…仕方がないんだ」
─────私を信じて
今にも消え入りそうな小さな声だった。
男の子なのに、抱きしめられるがまま。
カッコ悪いのなんてわかっている。
そんなぼくの背中にそう伝えてくれた。
大切な人なんていらない、そう決めたのに、なまえちゃんがほしい……そう心が揺れる。
「子供の頃、スケートの日に先に帰っちゃってごめんね。昔ドラマとかに出ていた頃だったから、気づいた人が騒いで人だかりができちゃって。パニックになって、走って帰ったの。あと、文通のお返事も勝手に止めちゃってごめん。お母さんに、寿嶺二くんって誰なのって聞かれたから、気になってる仲良しの男の子だよって話したらもうお手紙送っちゃダメって言われたの。馬鹿だよね。内緒で送れば良かったのにね。その頃からずっと、嶺二くんのことが好きでした」
きみなら……
「嶺二くんの気持ち、聞きたいな」
「ぼくも……ずっと、ずっと好きでした」
「今度は私が守ってあげる」
声をあげて泣いた。
辛かったね、苦しかったね、と顔は見ないように、ずっと後ろから頭をなでて、きつく抱きしめてくれていた。