ぼくがぼくになった日
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オーディションが終わり、携帯の電源を入れると、なまえちゃんやひびきん、けーちゃんから不在着信が並んでいる。
メールもたくさん……
『愛音がいなくなった』
『愛音くんと連絡が取れません』
『愛音が行きそうなところを教えて』
如月愛音は失踪した。
それが愛音に関わるすべての人の心に大きな影を落とすとも知らずに。
寮へと戻ると、みんなが集まっているのを知っていたけれど、夢で見た藍色の海が気になってインターネットで朝まで調べた。
数日間、体調が悪いとマスターコースのレッスンも欠席し、訪ねてきたなまえちゃんにも居留守を使ってしまった。
こんなときはひとりでいたくない。誰かといた方がいいとわかっているのに、ずっと意地を張って大人ぶってしまった。
仲間との話し合いをしなかった結果がこれだ。
愛音の悩みに気付いてあげられなかった後悔から、ひびきんは事務所を辞めてしまった。
あの温厚なけーちゃんも、シャイニーさんと口論になり、自分で退社したのだという。
そんなタイミングで、ぼくはオーディションを介してのデビューが正式に決まり、実家からおめでとうと電話がかかってきた。
愛音を犠牲にしてのデビュー、そう周りに思われても仕方ない。
それでもどこかで見ているかもしれない愛音のために、ぼくは小学生の頃に見たなまえちゃんのヘアピンよりも輝くキラキラのステージに立ってデビューすることを決めた。