ぼくがぼくになった日

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「なぁ、なんであんなパッとしない男といつも一緒にいるの?」


「あなた達みたいに人を馬鹿にしないからかな」


「このクソアマ……」


「なまえちゃん!」


彼女はひねくれている。
昔からそうだったのかまではわからないけど、何か口を開けば憎まれ口を叩いている。









「寿くん、私に近寄らない方がいいよ」


「やーだね」


「悪い噂されちゃうよ」


「そんなの気にしないよん」


幼い頃から芸能界にいるから、自分で壁を作ってしまうのかもしれない。
それをどうにか壊してやりたいと思う。

ぼくだけじゃなく、周りの人とも仲良く話せたらきっとこの学園生活も楽しいはずだ。






翌日なまえちゃんが仕事で学園を欠席した日、ホームルームの最後に教壇へあがってみんなの前で大きな声を出した。


「みんな聞いて!なまえちゃんのことなんだけど」


「お前らデキてんのか?怪しいよな」


「ぼくたちは小学生の頃知り合いになっただけで、みんなが思うような関係ではないよ。なまえちゃんなんだけど、きっとみんなと仲良くなりたいんだと思う。だからさ、もう少し優しく…」


嫌だよ、無理だね、そう数名が言うと、始業まで5分もないというのにみんな散り散りになってしまった。


アイドルを目指している男女が多いこの教室の中ではライバル意識の高い人が多いのだろうか。



「あの、僕もそう思ってました」


如月愛音くん。ハーフかな、と思っていたけどばっちり日本人だった。


「ダセーよな、そういういじめみてーなのって」


こっちは片桐響くん。
いつももうひとり隣にいるのは音波圭くんで、この将来の夢も違う男子3人とぼくは急速に仲良くなる。



なまえちゃんには、仲良くしたいって人がいるよと伝えると、怪訝そうな顔をしていたけれど、ぼくが彼ら3人を紹介すると、恥ずかしそうによろしくと握手をしていた。




それからは学校終わりにまっすぐ寮に戻らずコンビニでお菓子を買ったり、ひびきんの部屋で対戦のゲームをしたり。


「なんだか不良になったみたい」となまえちゃんは言っていた。


ぼくたち男子4人は頭にいつもたくさんはてなマークを浮かべてなまえちゃんの話を聞いていた。



「ゲームって1度も買ってもらったことなかったの。時間がもったいないでしょって言われてね」
「カップラーメンって私食べたことなくて。栄養価が低いとか、塩分が高いから肌が浮腫むからってずっと禁止されてたの」





その頃にはなまえちゃんはいろんな食べ物を吐かずに食べられるようになっていた。


みんなで食べるご飯っておいしい。そう言って最近はいつもお気に入りの塩味のカップラーメンを買うのだ。

ゲームもそう。けーちゃんが渡したコントローラーを上下逆さまに握った時はあまりにもおかしくてみんなで大笑いした。


しまった!怒っちゃうかも!
そう思ったのもつかの間、楽しい!となまえちゃんまで大爆笑。


入学式の日に真っ白な顔のか細い声で話していた彼女とはまるで別人のようになった夏の日。
もうすぐぼくは16歳になる。







「嶺二!お誕生日おめでとう!」


ぼくのお誕生日には、たくさんのお菓子を持って、4人が部屋に来てくれた。


それはなんてことない日で、みんなでお菓子を食べながらテレビを見て、ひびきんのお下がりのエッチな本を貰って、なまえちゃんに軽〜くののしられ、ムッツリなけーちゃんの顔は真っ赤。愛音はいつもニコニコ笑っている。


ずっと5人でいたいね。そんなクサイことは言えはしないけど、きっとみんなそう思っていたんじゃないかな。
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