ぼくがぼくになった日
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「おっはよー!じゃーん!唐揚げ弁当!昨日あれから買い物に行って色々作ってきたんだよ!」
「私、写真をお母さんに……」
「と思ってサラダも作ってきたよ。これ撮って送ればいいよ」
昼ごはんの時間になると、半ば強引に彼女の席の隣のイスを拝借してお弁当を広げ始めた。
「さぁご一緒に!いーただーきまーす」
「……わぁ…美味しそう。いただきます」
なまえちゃんが喜んでいる。
小さな口で唐揚げをひとつかじると、子供の時のような顔をして笑ってくれた。
おいしい、おいしいと二つ目の唐揚げを飲み込んだ後、いきなりカバンをガサガサと漁ると、そのまま嘔吐した。
「うわ!あいつ吐いた!汚え!」
「やだー、まじ引くー!」
カバンの中からタオルを取ろうとして間に合わなかったようだった。
ぼくのタオルを出して、口を拭いてあげると、なまえちゃんの手を引いてクラスの連中を睨みつけて中庭へ出た。
「ごめんなさい……私のせいで、ごめんね」
「なまえちゃん」
「……まだ残ってる。全部吐きたい」
そう言って左手を口元へ運んだ。
「お願い。手が傷だらけだよ、もうやめなよ」
泣いていた。きっと吐かなくては彼女の気が済まないのだろう。
「わかった、ぼくの手使っていいから。ね」
水道で軽く手を洗うと、何も言わずにぼくの手を口の奥まで入れた。
何か柔らかくて温かいものに触れた瞬間、砕かれた唐揚げがいくらか出てきた。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい、でも美味しかった。ほんとだよ。揚げ物なんて何年ぶりだろう」
吐いてしまったって、ちゃんと食べてくれたじゃないか。おいしいって、ぼくの顔を見て言ってくれた。それだけでいいよ。
「また…食べたいな」
「いつでも作るよ」
嘔吐したからか、目の端に涙をためてぼくに笑ってくれた。