ぼくがぼくになった日
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「母ちゃん、ありがとう。うん。これからだよ、じゃあまたかけるよ!」
寮を片付ける暇もなく、母ちゃんからの電話を終わらせて、式典に向かう。
「入学おめでとーーーーうゴザイマァース」
入学式の最中、ド派手なおっちゃんがガラスで出来た素敵なステンドグラスの壁を割っていきなり2言程度の挨拶を始めると、あれよあれよという間に新入生全員の頭に色とりどりの帽子が降ってくる。
「それがユーたちのクラス分けになりマァース。それではァ、GOOD LUCK!」
パーティのときにかぶるようなとんがりボウシ。
あっけに取られて緑の帽子を手に立ち尽くしたまま、クラス担任に導かれるまま教室へと流れされるように歩き出した。
「俺がこのクラスの担任だ。現時点でこのクラスでデビューしている奴がいる。皆も知ってるな、みょうじなまえだ。みんなこいつのように売れっ子になれるようにがんばれよ。なまえも周りの奴らに抜かされねぇようにがんばれな」
「はい」
かぼそい声で返事をする彼女は間違いなくなまえちゃんなのに、ぼくの知っていたなまえちゃんじゃないみたいだった。
「なまえちゃん!久しぶり!」
「あ、久しぶり、です」
「ぼくのことわかる?」
「はい」
ぼくを見上げた眼に光はなかった。
細すぎる身体にやけに真っ白な肌。
少年誌のグラビアではあんなに輝いていたのに。
「ねぇ、なんですでにデビューしてるみょうじなまえがこの学園にいんの」
「見てよあの指にある吐きダコ。気持ち悪い」
「いくら売れたくてもあぁまでしたくないよね」
入学初日から、なまえちゃんの周りではこそこそと噂話が聞こえた。
彼女は何も聞こえていないかのような顔で配られた教科書に目を通したり、台本のようなものを読み込んでいた。
今日は午前中で終わり。
なまえちゃんを誘ってご飯でもどうって声をかけてみようかな。
「なまえちゃーん、何か食べに行かない?」
「ごめんなさい、私、お母さんに…」
「お母さん見てないじゃん、ラーメン食べに行こ!」
「食べたものは写真撮って送らないといけないの。また明日ね」
お母さんに苦しめられている。
気づいてるんでしょ、今の自分では楽しくないことも、魅力が半減していることも。
なまえちゃん。
きっと、じゃないや。
ぼくはきみが好き。